基礎知識

アメリカの雇用平等政策の概要
(その1)

 企業内のセクシュアル・ハラスメントを放置していたと、EEOC(雇用機会均

等委員会:the Equal Employment Opportunity Commission)によって連

邦地方裁判所に提訴されるなど、在米日系企業の雇用差別が問題となっています

が、その背景にあるアメリカの雇用差別を禁止する法律と雇用平等政策の概要を

取り上げてみました。

 アメリカには連邦レベル、州レベルでたくさんの雇用平等法があり、それぞれ

管轄機関が定められていますが、ここでは、連邦レベルの雇用平等法の代表的な

ものとして、公民権法タイトルVII(セブン)とそれを管轄するEEOCを中心に

紹介します。


一九六四年公民権法

 「一九六四年公民権法」はケネディ大統領によって提案され、次期ジョンソ

ン大統領のもとで制定されたものです。

 「南北戦争以来の画期的な黒人救済措置」といわれるこの法律が制定された意

義はきわめて大きく、マーチン・ルーサ・キング牧師に率いられた第二次世界対

戦後の公民権運動の成果の表れといえます。

 この法律には、

(1)公共施設の場における人種差別を停止させるための連邦政府の権限の拡大

(2)公共施設や公立学校での人種差別撤廃

(3)公民権委員会の権限の拡大

(4)人種、皮膚の色、性別または出身地を根拠とする差別雇用の全面的禁止

(5)苦情の調査と監視のための雇用機会均等委員会の設立

などが盛り込まれています。

 市民的諸権利の保護に関し、相互に密接な関連をもちながら、それぞれが独立

した十一編の個別法からなり、新たに導入された諸規定の部分と、既存の公民権

法その他関係法令の諸規定を修正補強した部分を合成するかたちで編成されて

います。その第七編がタイトルVIIです。

 タイトルVIIは従業員一五名以上の雇用者を対象に、人種、皮膚の色、宗教、

性別、出身地などの相違による一切の差別を禁止・撤廃する画期的な法律であり、

日本の男女雇用機会均等法のように努力義務規定にとどまる法律とは大きく異

なります。


EEOCの設立と使命

 EEOCは一九六四年に公民権法第七編(タイトルVII)が成立したことにとも

ない、これを管轄する政府の独立機関として設立されました。

 EEOCは、最初はタイトルVIIだけを管轄していましたが、一九七九年から、

これに年齢差別禁止法、同一賃金法、リハビリテーション法第五〇一条が加わり、

一九九二年には、リハビリテーション法を改正した障害者差別禁止法と一九九一

年の公民権法の一部も管轄するようになりました。

 EEOCの使命は、平等な雇用環境を保障するために、調査、和解、訴訟、調整、

通達、教育、指導などを通じて、雇用差別を禁止している法律を施行することで

す。


雇用差別に関する定義

 まず、雇用差別を法律の枠組みの中で考えるうえで、理解しておく必要がある

定義があります。以下の五つの定義がそれで、EEOCが雇用差別の訴えを処理す

る時の基準となっています。

(1)処遇の相違

 処遇の相違とは、人種、皮膚の色、宗教、性別、出身地を理由として、雇用関

係において一部の人が不利な処遇を受けることをいいます。

(事例)黒人従業員Aと白人従業員Bがともにタイムカードを改竄して、残業

料を不当に稼いでいたということが明らかになり、雇用者はAを解雇し、Bを

三日間の停職処分にしたような場合

(2)不利な影響

 不利な影響とは、中立的な雇用政策がすべての従業員や求職者に適用されるこ

とで、少数民族や女性が著しく排除されるような影響を受けることをいう。

(事例)身長の高い人しか雇わない企業があるとすると、それ自体は特定の人種

を直接的に差別するものではないが、実際にはアジア系の人は、一般に身長が高

くないため、結果的に、あるグループを差別していることになるといった場合

(3)過去の差別の永続化

 過去の差別の永続化とは、現在採用されている中立的な雇用政策が過去に行な

われていた雇用差別的な政策を継続させるように作用することをいいます。

(事例)黒人の採用を拒否してきたある企業が公民権法成立後、差別的人事採用

を行なわないことを決定したが、実際の採用活動には既に雇用されている従業員

の紹介を通じて行なわれていた。それまでは、黒人従業員はいなかったわけです

から、紹介という方法にたよる限り黒人が採用される可能性は少なく、過去の雇

用差別が引き継がれているといった場合

(4)調整・設備

 EEOCは、タイトルVIIにおける宗教差別と障害者差別禁止法における障害者

の雇用差別を定義することばとしてACCOMODATION(調整・設備)という単

語をもちいています。宗教差別においては、例えば安息日を休日として認めるな

ど従業員の宗教的行事への参加を保障するために、労働時間や労働日を「調整」

することを経営者に求めています。また、障害者差別については、例えばスロー

プを設置するなど、障害者が働くにあたり不自由のないように「設備」を改善す

ることを要求しています。

 この場合、経営者は事業を行なう上で著しい困難がなければ、これを行なわな

ければなりません。

(5)報復

 タイトルVIIでは、従業員がこの法律に基づいて雇用者を訴えたり、調査に

協力したことを理由として、雇用者が従業員に報復を加えることを禁止していま

す。


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