ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

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人権に関するさまざまな知識のコーナーです

「ほめ達の極意とは」

プロフィール

一般社団法人日本ほめる達人協会 理事長
西村 貴好 (にしむら たかよし)

「泣く子もほめる!」ほめる達人。
ほめる効果を活用し、さまざまな企業のスタッフ・商品・サービスの価値を高める切り口を提供。
橋下知事が大阪府の調査を2年連続で依頼。その様子をNHKが「クローズアップ現代」で全国放送。
2011年に一般社団法人日本ほめる達人協会を設立し理事長に就任。「ほめ達!」検定をスタート。
「クローズアップ現代」「月曜から夜ふかし」「ガイアの夜明け」など。TV出演多数。

「ほめ達」の原点はダメ出しの達人

ほめ達の原点は、ダメ出しの達人だった私の失敗体験から生まれたものです。人のできていないところを見つけ、指摘するのが得意だった私は、2005年に自分のダメ出しの力を発揮できる覆面調査会社を立ち上げました。顧客のふりをした調査員を店舗に派遣して、どのようなサービスが行われているのかを調べる仕事、証拠付きでできていないところを指摘していくというものです。

結論から申し上げると、2年半、ダメ出しを出し続けましたが依頼先の業務改善は進まず、業績も上がることはありませんでした。ダメ出しばかりされて、業績も上がらない、これでは当然、顧客も離れていきます。ダメ出しによる大失敗です。

そこで、一念発起して、まったく逆の調査報告スタイルに挑戦してみました。

できている「当たり前」のことを「ほめる」調査報告に変えたのです。普通に調査すると、できていること20個に対して、できていないところが100個は見つかります。そのダメなところばかりを伝えることをやめ、まずできている点にスポットを当て、すぐに直せる簡単なもの二つか三つに絞り伝えるようにしました。

勇気を持ってこのスタイルを、ある焼き鳥チェーン店で実施してみると驚くべき結果になりました。

まず良いところを伝えて、簡単な改善のアドバイスをしたお店に、後日、再調査に入ってみると、直して欲しいと思いつつ「伝えていなかった」改善点まで見事に改善されていたのです。ダメ出しされると、ダメ出しされたところだけを直す。ほめて認めてアドバイスすると、ほめられていないところまで改善されるという結果になったのです。しかも、その改善行動は自主的で、工夫が入り、継続されていきました。業績も上がり、最高で昨年対比161%の売り上げを記録する店舗もありました。2007年9月の出来事です。それから「ほめる」ことの理論的な体型づけをまとめ、業種や業態を超えて使えるコミュニケーションのポイントをお伝えするようにしています。

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「ほめ達」が伝える「心の報酬」

ほめ達がお伝えしている内容に「心の報酬」というものがあります。給料や十分な休暇、福利厚生の充実など、目に見える形の報酬も、当然ながら充足されている必要があります。現代において、いわゆるブラックな企業というものは、存在していくこと自体が難しいでしょう。ところが、ブラック企業ではないけれども、コールド企業、冷たさを感じる企業や組織は、まだまだ存在するのではないでしょうか。

「心の報酬」はSDGsの目標8「働きがいも経済成長も」を実現していきます。

この「心の報酬」には、大きく分けて三つのものがあります。

まずは「成長の実感」です。人は成長を実感したい生き物です。そして社会人になると成長を実感する機会もグッと少なくなってしまいます。「成長の実感」を提供する際にポイントとなるのは、「タテでほめる」ということ。横並びに誰かと比べてしまうと「ほめる」ことは難しくなってしまいます。その人の小さな変化や成長を発見して伝えることが大切です。

もう一つは「貢献の実感」。その人の存在や行動が誰のどんな役に立っているかを伝えることです。直接顧客から感謝をもらえる仕事ではなかったとしても、誰の役にも立っていない仕事はありません。むしろ、直接の感謝から遠い「当たり前」を支える尊い仕事というものもあります。自分達の仕事の意味や価値を言語化して伝えていくことも必要なのです。

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「ほめ達」の極意

前述の二つよりも、より重要な「心の報酬」があります。それは「ねぎらい」です。「ねぎらい」とは、その人が立場上あるいは役割上、行なって当たり前の行動に対して、言葉を届ける、大変さに共感する、感謝を伝えるということです。この「ねぎらい」が、皆が潜在的に求めていながら、供給されていないものなのです。職場や家庭において、この「ねぎらい」を意識して伝えていくことこそ、「ほめ達」の極意なのです。

「ねぎらい」と聞くと、すごく難しいことをしないといけないように思いがちですが、やり方とコツさえ知ってしまえば、実践することはすごくシンプルで簡単です。

やることは、「事実+ありがとう」、これだけです。「手伝ってくれて、ありがとう」「資料を整理してくれて、ありがとう」「いつも細かいところまでチェックしてくれて、ありがとう」。

ポイントは「事実+ありがとう」で取り上げる事実は、小さなことでOKというところです。むしろ小さなことほど良いと思ってください。

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「ありがとう」の反対語

ねぎらいの「小さな事実」を見つけるヒントは、「ありがとう」の反対を考えることです。「ほめ達」は、「ありがとう」の反対語を「当たり前」だと定義しています。「当たり前」だと思った瞬間に、そこに価値や感謝がなくなってしまうのです。普段、ついつい「当たり前」だと思ってしまっている場面や周りの人の行動に対して、気づき、言葉として届けること、これが「ねぎらい」です。

「ねぎらい」は、届ける人の心にも報酬となって戻ってきます。

ほめ達の極意である「ねぎらい」を届ける場面は、職場だけではありません。家庭や日常の中にも、たくさんの「ねぎらい」の種が隠れています。

自らがまず、発信源となり、「ねぎらい」の種をどんどん蒔いて、あたたかい職場、家庭、地域づくりに挑戦していきましょう。


2023.5 掲載

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