ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

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人権に関するさまざまな知識のコーナーです

資料館探訪 水平社創立の理念を共有し、尊厳の実現へ

水平社博物館外観

▲水平社博物館外観

はじめに
鮮やかな17色が整然と並ぶドーナツ型のメイクパレットのようなロゴマーク。みなさまの胸元や襟元にもこのバッジが輝いているのではないでしょうか。

地球上のすべての人が豊かで幸せに暮らせる未来を創造するためのSDGs(持続可能な開発目標)には、5つの「P」が重要なキーワードとして挙げられています。お互いを尊重し、誰もが尊厳と平等の下に、健康な環境で生活できる世界を実現する「People」(人びと)、国や地域の格差をなくし、安全に安心して暮らせる「Prosperity」(豊かさ)、自然と共存し地球の環境を保全する「Planet」(地球)、紛争をなくし平和で公正な世界を実現する「Peace」(平和)、それらを達成できるようにみんなが協力する「Partnership」(パートナーシップ)です。

全国水平社は、部落差別からの解放を求める人たちによって1922年3月3日に創立されました。その大会は京都で開催されましたが、創立の中心を担ったのは現在の奈良県御所市柏原で生まれ育った青年たちでした。1998年に水平社発祥の地である柏原に開館した水平社博物館は、人間の尊厳と平等の確立をめざして部落差別と闘った水平社の歴史を展示しています。創立からまもなく100年を迎えますが、SDGsのキーワードに通じるその理念は、後世へと継承し未来に遺していかなければならない私たちの財産です。

水平社博物館 館長 駒井 忠之



世界も注目した水平社

創立大会で「吾等の中より人間を尊敬する事によつて自ら解放せん」と、差別によって歪められてきた自尊感情を回復し、人間の尊厳を取り戻そうと訴えた全国水平社創立宣言(以降、水平社宣言)は、日本で初めての人権宣言と評価されています。「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と結ばれたそれは、被差別部落の人たちだけではなく、在日朝鮮人やウチナーンチュ(沖縄人)、アイヌ民族やハンセン病回復者らの自主的な人権回復運動の展開に刺激と勇気を与えました。さらに、日本の植民地支配下にあった朝鮮では、1923年4月に朝鮮の被差別マイノリティ「白丁」(ペクチョン)を中心として衡平社(ヒョンピョンサ)が創立されました。

水平社は朝鮮の他でも報道され、アメリカの雑誌『The Nation』は、水平社宣言を英語で紹介しました。他にも、アイスランド、イギリス、イタリア、オーストラリア、オーストリア、カナダ、コロンビア、スイス、スペイン、ドイツ、ニュージーランド、フランス、ロシアで記事が確認されています。世界も注目した水平社宣言は、被差別マイノリティが発信した世界初の人権宣言としても評価されています。


世界の人びとと理念を共有

厳しい差別のなか水平社と衡平社が連帯を求めて交流した歴史は、人類の普遍的原理である人権、自由、平等、博愛、民主主義を基調とした記録で、それを示す史料が「水平社と衡平社 国境を越えた被差別民衆連帯の記録」として、2016年、ユネスコのアジア太平洋地域「世界の記憶」に登録されました。

また、水平社博物館は国際人権博物館連盟(FIHRM)に日本で唯一加盟し、水平社の理念を世界に発信しています。2018年に参加したカナダ大会では「すべての博物館は人権博物館たり得る」との提起があり、国際博物館会議(ICOM)でも、博物館は「人間の尊厳と社会正義、世界全体の平等と地球全体の幸福に寄与することを目的」とするなどとした博物館定義が検討されていて、水平社博物館が果たすべき役割は今後ますます重要となりそうです。


ともに人間の尊厳の実現へ

水平社の創立以降、人権を回復し獲得してきた道のりは、自由や平等を求め未来に引き継ごうとしてきた先人の弛まぬ努力によって私たちに引き継がれてきました。水平社博物館も、水平社が運動の二本柱としてきた「人間の尊厳と平等を求める理念」と「差別を許さない不屈の精神」を引き継ぎ、その想いを未来につないでいきます。

差別が厳しく残存する過酷な状況のなか、道なき道を突き進み、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と闘い続けてきた先人の想いこそが、
差別の芽を摘み、差別の連鎖を断ち切る真理であると信じて。
人間の尊厳を求めるその意志を貫くことが差別の克服につながると信じて。
温かさに満ちたその想いこそが、人間が尊敬される「よき日」の夜明けへと導く光であると信じて。

水平社創立の理念を共有し、森の火事に嘴ですくった一滴の水を落とし続ける『ハチドリのひとしずく』のごとく、一歩ずつ、ともに「人間性の原理に覚醒し人類最高の完成に向って」歩んでいきましょう。

おわりに

水平社博物館は2022年3月3日、水平社創立100周年の記念日にリニューアルオープンします。リニューアルにあたり、みなさまの心にのこっている言葉を募集しています。元気や勇気をもらった身近な人の言葉なども歓迎です。※1

最後に、水平社創立の理念を発信する水平社博物館は、存在そのものが持続可能な社会の構築につながるものと信じています。当館が果たす社会的役割や展示の趣旨にご賛同いただき、みなさまのご支援(賛助会へのご入会※2)を心よりお願いいたします。

誰もがありのままの自分で、リラックスして生きていくことができる社会になることを願い、「人の世に熱あれ、人間に光あれ」。


■詳しくは、水平社博物館ホームページをご覧ください
http://www1.mahoroba.ne.jp/~suihei/

※1:2022年1月31日(月)まで募集
※2:賛助会など
http://www1.mahoroba.ne.jp/~suihei/sanjo00.html



2022.1 掲載

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