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有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

日本社会の課題 「ジェンダーギャップ解消」を考える

プロフィール

日経クロスウーマン編集部 編集委員
小田 舞子(おだ まいこ)

国際基督教大学卒。2001年に日経BP入社。日経ビジネス編集部、日経ビジネスアソシエ編集部、日経DUAL編集部、日経doors編集部を経て、2024年4月から現職。
小早川優子著『なぜ自信がない人ほど、いいリーダーになれるのか』、片山善博著『管理職になる前に知っておきたかった50のこと』などの編集、『早く絶版になってほしい #駄言辞典』(すべて日経BP)執筆・編集を手掛ける。
2022年に立ち上げた、日経BP「次世代女性リーダー育成講座」の修了生は400人を超える。

日本社会が現在抱える課題の一つである「ジェンダーギャップ解消」を考える際に欠かせないものがあるとすれば、その一つは日本国憲法の第14条だと言えるでしょう。「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」。このように日本では性別により差別されないと、憲法で定められているのです。

しかし実態に目を向けると、男女間にはまだ格差が広がっています。例えば2025年6月、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数ランキングで、日本は148カ国中118位(前年は146カ国中118位)。先進国で最下位です。このランキングは4分野の数値に基づいて算出されます。4つの分野をそれぞれ見てみると日本の順位は、健康分野は50位、教育分野は66位と比較的健闘していますが、経済分野は112位、政治分野は125位と順位を下げています。このように日本では経済と政治におけるジェンダーギャップが大きいと考えられます。

私が編集委員を務める日経BPのウェブメディア「日経クロスウーマン」が2023年に行った調査で、「あなたの職場や仕事環境におけるジェンダーギャップについてお聞かせください」と聞いたところ、59.8%から「格差は大きいと思う」もしくは「どちらかというと格差は大きいと思う」と回答がありました(回答者450人。性別は女性413人、男性33人、その他2人、無回答2人)。

また、私は2021年に『早く絶版になってほしい #駄言辞典』(日経BP)を出版しました。「駄言」は造語で「男なのに育休取るの?」「女はビジネスに向かない」のような思い込みによる発言を指します。特に性別に基づくものが多く、相手の能力や個性を考えないステレオタイプな発言で、言った当人には悪気がないことも多いと定義しています。

この本の始まりは2020年11月、日本経済新聞に掲載された一面広告です。「『#駄言辞典』を付けて、駄言にまつわるエピソードをつぶやいてください。まとめたものは絶版をめざして出版します」と呼びかけたところ、約1200の駄言が集まりました。集まったすべての駄言を読んで気付いたことがあります。それは、個々の駄言は個人的な内容に見えても、多くの人が同じような言葉を投げかけられ、同じように傷ついていること。そして私は「駄言は日本の社会構造によって生み出されているものなのではないか」と考えました。その後、同僚たちと話し合いを重ね、集まった駄言を「女性らしさ」「キャリア・仕事能力」「生活能力・家事」「子育て」「恋愛・結婚」「男性らしさ」という6つのカテゴリに分けて分析し、駄言が生まれる理由を探りました。

そしてたどり着いた「駄言を生む要因」の1つ目が、「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」でした。ジェンダー、国籍、人種、宗教、年齢、立場、職位、職種、業種、学歴、出身地、服装、見た目、話し方などから、無意識に「この人はきっと~~だろう」「~~に違いない」と思い込んでしまうというものです。そして、当人に、そうした思い込みを持っている自覚がないことが多いのです。

2つ目は「上位者によるハラスメント」。年齢、立場、職位、勤続年数、性別など、弱い立場の人を下に見て、弱者に対して攻撃的な言葉を口にしてしまう場合があります。

3つ目は「歴史的背景・社会構造」。日本の歴史を振り返ると、一貫して男尊女卑だったわけではないようです。男女格差につながった大きな要因は、1898年に施行された明治民法だといえるでしょう。この第一編、第14条に「妻カ左ニ掲ケタル行為ヲ為スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス」とあります。つまり、妻は夫の許可なしに一定の行為をすることができないとされ、無能力者とみなされたのです。

一方、1947年に施行された日本国憲法では、冒頭で触れた通り、法の下の平等が記されています。それにもかかわらず、今もなお、日本社会のそこかしこに女性を無能力者と見るかのような価値観が残っています。これが「女のくせに生意気な」「女の子にも分かる」といった駄言につながっていると言えるでしょう。

2025年10月、日本で史上初めての女性首相が誕生しましたが、議員の女性比率は、衆院15.7%(2024年10月時点)、参院29.4%(2025年7月時点)と低迷しています。女性議員比率が高く、先述のジェンダーギャップ指数ランキングで16年連続1位となったアイスランドの46.0%(2024年12月時点)と比べると大きな差です。女性首相の誕生により、次々回の日本の順位は多少上がるでしょう。それでも女性議員比率が突然上がることはありません。衆院の牧島かれん議員は取材時に私にこう話してくれました。「選挙で勝つには、駅前で朝から晩まで街頭演説をしたり、休日に地域のお祭りに何回も顔を出したりすることが重視されがちで、現実問題、育児や家事の多くを負担する女性には難しい。また、一人で街頭演説をしていると、男性有権者にからまれるといった問題もある。引退する男性政治家が選挙区を男性政治家に引き継ぐことがいまだに多い」。また、今年5月に来日したアイスランドのハラ・トマスドッティル大統領は取材でこう述べました。「女性の政治参加が進んで政策が変わり、社会の規範や文化が変わりました」と。つまり、社会の規範や文化を変えるためには、女性のさらなる政治参加が必要だと言えるのです。

経済分野の流れを見ると、1985年に男女雇用機会均等法が成立し、90年代以降に女性の労働力率が上昇。90年代後半を境に共働き世帯数が専業主婦世帯数を抜き、その差は開くばかりです。 2015年、女性活躍推進法が成立し、2021年には男性の育児休業取得を促す改正育児・介護休業法が成立。その影響で、1996年度にわずか0.12%だった男性育休取得率が2024年度には40・5%になりました。このように、過去約40年で日本の社会環境は大きな変化を遂げています。

ここで、もう1つのキーワードである「男女賃金格差」に着目しましょう。2022年7月、常時雇用労働者301人以上の事業主を対象に男女の賃金格差に関する情報開示が義務付けられ、2026年4月からは、従業員101人以上の企業も開示の対象になる予定です。 厚生労働省が発表した2024年の賃金構造基本統計調査によると、男性の賃金の中央値を100としたときの女性の賃金は75.8です。男女賃金格差を生む要因はさまざまですが、一般的には2つあると言えます。まず、女性管理職比率の低さ。女性の採用を増やす企業はあっても女性管理職はまだ少数派です。近年、課長の女性比率は上昇していますが、部長以上の比率はなかなか上がりません。2つ目は、企業によっては総合職と一般職といった区分があり、給与の高い総合職には男性が多く、給与の低い一般職には女性が多い傾向があることです。

2022年の賃金構造基本統計調査で、正社員の賃金(残業代などを含まない所定内給与)が男女別にグラフで紹介されています。(※図1)これを見ると、男女間にはピーク時の賃金に大きな差があることが分かります。男性のほうが月収にして約14万円も多いのです(男性が55~59歳で41万6500円、女性は同じ年齢層で28万円。女性は男性の67・2%しかもらっていません)。

図1 性、年齢階級別賃金

▲厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より



学歴別に見ると、同じ大卒でも、男性と女性のピーク時賃金は差があり、男性が約14万円高くなっています。大卒女性の賃金がピークとなる年齢層は55~59歳で37万5700円ですが、これは専門学校卒男性の同じ年齢層の38万7200円より低くなっています(大卒男性のピークは、55~59歳時で51万3800円)。(※図2)

図2 学歴、性、年齢階級別賃金

▲厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より



ここでもう1つ、男女格差という点で紹介したいデータがあります。2022年版「男女共同参画白書」によると、日本の女性は1日当たり、男性の5.5倍の無償労働(家事・育児)を担っていることが分かります。(※図3)2018年版「男女共同白書」によると、6歳未満の子どもを持つ夫の育児・家事関連時間(1日あたり)は1時間23分であるのに対し、妻は7時間34分です。(※図4)女性が管理職に上がれない、もしくは上がらないことと、この無償労働の負担格差は密接に関係しているといえるでしょう。

ある日系大手メーカーの女性社員は取材でこう話していました。「私は子どもを2人出産し、2回、産育休を取得しました。フルタイムで働くと長時間残業することが多く、私は育児との両立を図るために短時間勤務制度を使って働いてきました。1年半前にフルタイム勤務に戻し、人事面談で上司から『管理職になる気はあるか』と聞かれたときに『あります』と答えたものの、微妙な心境です。産育休の取得や時短勤務をする中、周りの社員にかなり負担を掛けてきました。今の部長はずっと私のキャリアアップを応援してくれていますが、私自身は職場で肩身の狭さを感じており、大きな声で『管理職になりたい』とは言えない雰囲気があります。一方、私のようにスーパーウーマンではない女性社員が管理職になれば、後輩の女性たちのキャリアビジョンにはプラスの影響を与えられる気もしています。」

図3 男女別に見た生活時間(週全体平均)(1日当たり、国際比較)

▲厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より


図4 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日当たり、国際比較)

▲男女共同参画局「男女共同参画白書 平成30年版」より



ここで女性の家事負担について考えてみます。2023年にノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン教授は、著書『なぜ男女の賃金に格差があるのか』(慶応義塾大学出版会)で、冷蔵庫や掃除機、洗濯機などの誕生と浸透が女性の役割に影響を与えたと指摘しています。今日の日本では、洗濯乾燥機、食器洗濯機、ロボット掃除機なども共働き世帯の生活に大きな影響を与えていると言えるでしょう。また、今後はAI(人工知能)の力を使って毎日の献立決めや買い物リスト作りなど、家事や育児の負担を縮小する技術が私たちの生活に浸透する可能性もあります。

2022年、私は日経クロスウーマンの国際女性デーに関する記事を作成する際、当時の台湾のオードリー・タン デジタル担当相にビデオメッセージを依頼しました。テーマも自由に選定してもらったところ、タン担当相から「家事は家族全員で分担すべきだ」という内容の動画が届きました。しかし、その動画を見たシニアの男性から「せっかくタンさんからコメントをもらうなら、もっと高尚な内容にすべきだったのではないか」と指摘されました。私(常日頃、家事の多くを負担している人)から見れば、家事の分担は紛れもなく、高尚、かつ、重要なテーマです。人材不足の日本における今後の経済発展や、少子化問題の解決にも直結します。しかし、立場によってはそう感じない人もいるのだと知り、愕然としました。

国内のジェンダーギャップを解消するために最も大切なのは、日本に大きなジェンダーギャップが存在していることにまず気付くことです。一度気付けば「あれもそうだ、これもそうだ」と、これまであまり見えていなかったさまざまなギャップが見えてくるでしょう。そして、身近なことからそのギャップを解消する方法を考えてみてください。職場や家庭、社会の中で、私たちができることは意外とたくさんあるはずです。また、組織内の雰囲気や制度、働き方を変えられる立場にある人ならば、ぜひ組織内の変革を始めてください。そうした立場にいない人はできたら仲間を見つけて、小さなことからで構わないので行動を起こしてみてください。

最後に、このテーマについて考える際に頭に置いておくべきことは、このテーマは「女性」対「男性」の対立構造ではないということです。自らの性別は横に置き、中立的な立場で過去を振り返って現状を見つめ、未来を想像し、自分事として冷静に考えることが必要でしょう。

※参考文献:『早く絶版になってほしい #駄言辞典』日経クロスウーマン編(日経BP) 『女性差別はどう作られてきたか』中村敏子著(集英社新書) 『なぜ男女の賃金に格差があるのか』クラウディア・ゴールディン著(慶応義塾大学出版会) 日経クロスウーマン「アイスランド大統領、7歳のときに訪れた転機 『男女平等』鍵握るのは」 日経クロスウーマン特集「男女賃金開示アワード」 日経クロスウーマン「大卒女性のピーク時賃金は男性より月約14万円低い 解決するには」 日経クロスウーマン「オードリー・タン 性別の異なる人すべてが平等な社会に」

2026.3 掲載

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