ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

クローズアップ

有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

高﨑 真一:「ビジネスと人権」~企業に求められる人権尊重責任

プロフィール

ILO駐日代表
高﨑 真一(たかさき しんいち)

高知県出身。東京大学法学部卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。
福岡県職業安定課長、在米日本国大使館一等書記官、官房国際課長、官房審議官、JICA在インドネシア政策アドバイザー、愛知労働局長等を経て、2020年6月から現職。

《国際労働機関(ILO)紹介》
労働問題を扱う国連の専門機関。1919年に設立、1969年ノーベル平和賞受賞。
ILO駐日事務所はILOと日本の接点として、日本国内の政府、使用者、労働組合をはじめ、幅広い関係者と連携し、ILO政策の普及・推進に向けた活動を展開。最近では企業との関りが深く、例えばJEITA(電子情報技術産業協会)と協働して「責任ある企業行動ガイドライン」を策定し、東京2020組織委員会と協力していわゆる「責任ある調達」に向けた各種取り組みを実施。

近年、企業による人権尊重の必要性について国際的な関心が高まっています。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」策定をきっかけに企業はサプライチェーン全体の人権リスクまで責任を負うことが求められるようになり、人権デューデリジェンスの導入が急速に進んでいます。またESG投資の拡大によって、企業の人権への取り組みが格付けされ、企業価値に直接影響するようになりました。企業は従来の自主的なCSR(企業の社会的責任)をさらに進めて、経営戦略の一つとして人権尊重に取り組む時代になりつつあります。

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企業の人権配慮を求める国際的な枠組み

1990年代以降、経済のグローバル化に伴い多国籍企業が出現したことで、国を跨いで発生する環境汚染や人権侵害が国際社会の課題として取り上げられるようになりました。これらの課題は従来の国家による規制だけでは対処しきれないことから、直接、企業に社会的責任を問うという要請が生まれ、企業に向けた人権保障に関する国際的な枠組みを求める機運が強まりました。1999年には持続可能な成長を実現するための世界的な枠組みとして国連グローバル・コンパクト(UNGC)が発足しました。そして国際的な「ビジネスにおける人権」に関する枠組みが形成される上で大きな転機となったのは、2011年国連人権理事会で承認された国連事務総長特別代表のジョン・ラギー氏による「ビジネスと人権に関する指導原則(UN Guiding Principles on Business and Human Rights)」(以下「指導原則」)策定です。指導原則は ①人権を保護する国家の義務、②人権を尊重する企業の責任、③救済へのアクセス、の三つの柱からなり、企業が、自らの活動によって人権に負の影響が及ぶリスクを防ぎ、対処するための責任を負うことを初めて明記しました。

「指導原則」は、企業が人権についての負の影響に密接に関与している場合に、その影響に責任を負うべき以下の三つの状況を定めており、企業はこの負の影響を防止、軽減、是正することが求められています。中でも重要なのは、企業が直接の当事者として関わる人権リスクのみならず、サプライヤーなど第三者を通じたサプライチェーン上の人権リスクにまで企業が一定の責任を負うことが明記されている点です。例えば、子会社等資本関係のあるサプライヤーはもちろん、単なる契約関係に過ぎない内外のサプライヤーや輸送会社、広告会社における人権リスクについても一定の責任を果たさなければなりません。

①企業が、自らの活動を通じて影響を引き起こしている(Cause)
②企業が、自ら活動を通じて影響を助長している(Contribution)
③取引関係によって、企業の事業、製品またはサービスと影響が直接結び付いている(Linkage)
(図1)

図1

そして指導原則は、責任ある企業に対し「人権デューデリジェンス」の実行を求めています。人権デューデリジェンスとは、企業活動を通じて生じ得る、強制労働や児童労働、ハラスメントといった人権侵害のリスクを特定し、予防策や軽減策を講じるなどの一連のプロセスを指します。具体的には、人権に関する方針の策定、企業活動が人権に及ぼす影響の評価、是正措置、パフォーマンスの評価や情報開示などが含まれます。(図2)

図2

留意すべきは、指導原則において企業が尊重すべき人権の内容が「国際的に認められた人権」とされている点です*1。日本は国際的な人権に関する条約や規約等を一部批准していないため、日本社会の現状と国際的な人権課題とのギャップが発生する可能性があります。そのため、日本企業が指導原則に基づく人権尊重責任を果たしていくためには、日本の法令遵守に加えて「国際的な人権基準」に基づいたリスクの発見と対応を行っていくことが必要となります。

「指導原則」自体は強制力を持つ枠組みではありませんが、国際的なフレームワークとして国際的な指針や各国政府、企業による対応が急速に進むこととなりました。指導原則の内容を踏まえ、2011年にOECD多国籍企業行動指針、2017年にILO多国籍企業宣言がそれぞれ改定されました。また2010年の「カリフォルニア州サプライチェーンの透明性に関する法律」を皮切りに、欧米を中心とした法的整備が進んでいます。2015年「英国現代奴隷法2015」、2017年「フランス人権デューデリジェンス法」、2018年「オーストラリア現代奴隷法」、2019年「オランダ児童労働デューデリジェンス法」、そして2021年に入りドイツが「人権デューデリジェンス」の実施を求める「サプライチェーン法」を導入しました*2。欧州委員会は企業に対し人権デューデリジェンスを義務付ける法的枠組みを2021年中に提案すると表明しています。企業の人権尊重責任が多くの国の国内法で規定され、法的に義務付けられる時代になりつつあります。(図3)

図3

そして2015年に採択されたSDGsは広く社会に認知され、企業の社会的配慮を測る指針として多くの企業の経営課題に組み込まれるようになりました。消費者意識の高まりにより、不適切な人権対応が企業ブランドイメージの棄損に繋がり、売上げに影響するケースも出ています。企業活動のあり方が、コストはできるだけ抑えた方が良いという利益追求型から「人権侵害(環境汚染)課題の解決と、経済的成長や繁栄を両立させていく」という考え方へのシフトが起きています。

ESG投資の拡大

企業の人権を求める動きは、株式市場でも強まっています。2006年に提唱された責任投資原則(PRI)をきっかけに、世界の株式市場において企業の社会的配慮を投資判断に組み込むESG投資が広く浸透するようになりました。当初は63の署名機関数からスタートしたPRIは拡大を続け、2020年11月時点で署名数3038、運用資産は100兆ドルを超えています。(図4)

図4

2015年には世界最大の機関投資家である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:Government Pension Investment Fund)がPRIに署名しました。GPIFの運用資産は約170兆円以上(2020年11月時点)と世界最大であり、GPIFのPRI加入は日本企業のESGへの取り組みを本格化させる大きなきっかけとなりました。

ESG投資の拡大に伴い、企業の社会的配慮の取り組みを数値化・格付けするESGベンチマークが台頭するようになります。人権に関するベンチマークの中でも、機関投資家と人権NGOが設立したビジネスと人権に関する国際的なイニシアチブCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)の格付け結果は多くの投資家が活用しており、その動向が注視されています。

さらにコロナ危機にあたり、ウイルスの影響で危機にさらされる労働者、サプライチェーンの労働者などの利害関係者の人権・福祉に関連するESGの「S(社会)」に特に注目が集まっています。PRIは2020年10月、「持続可能な復興に向けて社会、特に人権の問題を投資コミュニティが受け止めなければいけない」として、人権を今後のESGの核とする方針を表明しています。

このように、企業に人権配慮を求める国際的な枠組みやESG投資の拡大といったさまざまな要因によって、企業による人権配慮やサプライチェーンへの対応が急速に求められるようになっています。企業にとって人権問題への対応は、それまでの自主的なCSRを超えて、国際会計基準と同様に、企業価値の維持・向上のために取り組まざるを得ない中核的な企業コンプライアンスとなったのです。

グローバル企業の人権への取り組み

「ビジネスと人権」を取り巻く環境の変化と共に、企業がサプライヤーなど第三者を通じたサプライチェーン上の人権侵害の責任を追及される事例が増えてきています。世界的に有名な事例では、2013年4月に起きたラナ・プラザ事件が挙げられるでしょう。

ラナ・プラザ事件とは、バングラデシュのダッカ近郊のラナ・プラザビルが崩壊し、1100名以上の死者が発生した事件です。犠牲者の多くはビル内に存在した世界的な大手アパレルメーカーの下請工場の従業員で、劣悪な環境の中で労働を強いられていた実態が明らかになりました。史上最悪の労働災害として世界的に注目を浴びたことを受け、大手アパレルメーカー間でバングラデシュにおける下請縫製工場の安全体制を改善するためのプラットフォームが立ち上がりました*3。プラットフォーム参加企業はサプライヤーへの検査等を通じてバングラデシュの現地工場における労働者の安全を確保するための取り組みを行います。また現地サプライヤーが要求されている安全措置を拒絶した場合は、プラットフォームに参加するアパレルメーカーとの取引が停止されるという仕組みです。

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他にも、大手グローバル企業を中心にサプライヤーへの行動規範を求める動きが強まっています。取引を開始する上で行動規範を遵守することが条件とされる他、その後サプライヤーの行動規範の違反が発覚した場合、取引停止に繋がる恐れがあります。最近の事例では、2020年11月にアップルがiPhoneなどの主要サプライヤーの1つであるPegatronにサプライヤー行動規範に対する違反があったとして、新規取引を一時停止したことが明らかとなりました。Bloombergによると、Pegatronはサプライヤー行動規範に違反していた事実を隠ぺいするために書類を改ざんしていました。具体的には中国の上海と昆山(江蘇省)工場で学生が夜勤や時間外勤務をさせられていたということです。

また2020年12月にはインドのiPhone工場で賃金未払いを不服とした労働者による暴動が勃発し、アップルはサプライヤーWistronへの発注を一時停止し、Wistronが「完全な是正措置」を取るまで同社を保護観察下に置き、新規事業は発注しないことを表明しました*4。

このように、多国籍企業がサプライヤー行動規範を基にした取引関係の見直しを行うことで、中小企業サプライヤーの人権配慮を求める事例が増えてきています。

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日本企業の取り組み状況と課題

日本においても、2020年10月に政府が「『ビジネスと人権』に関する行動計画(National Action Plan、 NAP)」を策定しました。NAPでは、企業の人権対応が投資家等から求められており、日本企業の企業価値と国際競争力の向上、及びSDGs達成への貢献に繋がると指摘されています*5。

日本企業のCSRへの取り組みは、これまで環境分野が先行し、人権を含む社会面への対応は大きく取り上げられることは少なかったです。先述した人権ベンチマークCHRBの評価対象となる日本企業は年々増加していますが、その評価は総じて厳しいのが実態です。日本企業の「人権の取り組み」のスコアは、欧州企業平均の65%とされ、人権格付機関からは、「人権方針を策定していても、人権デューデリジェンスをビジネスに組み込めていない日本企業が多い」と評されています*6。

しかしESG投資の拡大や人権格付の台頭といった環境の変化により、人権課題に対する日本企業の姿勢も変わりつつあります。大手企業を中心に取り組みが進んでおり、経団連の調査によると、約7割の会員企業が人権方針を策定済みと回答しています*7。また多くの企業は人権方針とともに調達方針を策定しており、サプライヤーへの働きかけを行っています。サプライヤーへ行動規範遵守を要請するのに加え、定期的なCSRアンケートやCSR監査を実施し、サプライヤーの人権配慮を具体的に求める動きが日本企業の間でも出てきています。

昨今、日本企業が関係する人権問題として大きく注目されるのは、①業務委託先やサプライヤーの工場で起きる人権侵害、②国内の外国人労働者や海外の移民労働者の問題、でしょう。①の最新の事例としては、中国の新疆ウイグル自治区における強制労働リスクや*8、ミャンマーの軍事クーデターに対する企業の対応などが国際社会から注目されています。

②の外国人労働者に関しては、2019年に大手エレクトロニクス企業が技能実習計画とは異なる単純労働をさせていたとして、技能実習適正化法違反で厚生労働省から改善命令を受けています。その他大手自動車メーカーなども改善命令より更に重い、技能実習計画の認定を取り消されるケースが出ています*9。

厚生労働省が2020年10月に発表した調査結果*10では、実習生などから相談・通報を受け、全国の労働局および労働基準監督署が立ち入り調査を行った9455の事業場において、71∙9%の事業場で、労働基準法などの違反が確認されたということです。技能実習制度は国際的にもその人権リスクが指摘されており、米国務省は2021年6月に発表した世界の人身売買に関する年次報告書で、外国人技能実習制度や児童買春を含む性的搾取・労働搾取の問題を繰り返し取り上げています。

技能実習生に関する人権侵害は、サプライチェーンの上流である中小企業で発生しているケースが多く、川下に位置する大企業にとっては目が届きにくいことが課題です。そのような状況を受け、サプライチェーンにおける外国人労働者への人権対応を狙いとして、小売り大手のイオンは2021年2月1日、生産委託先やサプライヤーの従業員が人権侵害を受けた際に相談できる窓口「お取引先さまホットライン」を開設しました。サプライチェーンの末端でも活用できる苦情処理メカニズムを作るのは、日本の小売りでは初めてだということです*11。原材料の生産から販売まで、サプライチェーンの全工程に従事する労働者を対象とし、外国人労働者も利用できるよう8言語での電話対応を準備しています。

中小企業は投資家からの視線に晒されることがない分、人権配慮の必要性を感じにくいのが実態です。しかし彼らのサービス、商品がサプライチェーン上のどこかでイオンのような上場企業あるいは欧米企業と関連する場合、今後取引先から人権配慮の要請を受ける可能性があります。小売り大手のイオンが全サプライチェーンを網羅した苦情処理システムを構築したことで、中小企業の人権への取り組み姿勢は今後変化していかざるを得ません。適切な人権対応を示すことができるかどうかが中小企業の信用性を左右し、その後の取引関係に影響する可能性が出てくるからです。

人権への配慮が、大手企業にとっては株式市場からの評価、中小企業にとっては取引関係に影響するようになり、経営戦略として取り組まざるを得ない状況になりつつあります。それは即ち、企業にとって人権対応はリスクである一方、チャンスにもなりうるということです。日本企業にはぜひ「ビジネスと人権」を企業の持続的成長に向けたチャンスとして捉え、取り組みを推進していただきたいと思います。

日本企業の取り組み状況と課題

日本においても、2020年10月に政府が「『ビジネスと人権』に関する行動計画(National Action Plan、 NAP)」を策定しました。NAPでは、企業の人権対応が投資家等から求められており、日本企業の企業価値と国際競争力の向上、及びSDGs達成への貢献に繋がると指摘されています*5。

日本企業のCSRへの取り組みは、これまで環境分野が先行し、人権を含む社会面への対応は大きく取り上げられることは少なかったです。先述した人権ベンチマークCHRBの評価対象となる日本企業は年々増加していますが、その評価は総じて厳しいのが実態です。日本企業の「人権の取り組み」のスコアは、欧州企業平均の65%とされ、人権格付機関からは、「人権方針を策定していても、人権デューデリジェンスをビジネスに組み込めていない日本企業が多い」と評されています*6。

しかしESG投資の拡大や人権格付の台頭といった環境の変化により、人権課題に対する日本企業の姿勢も変わりつつあります。大手企業を中心に取り組みが進んでおり、経団連の調査によると、約7割の会員企業が人権方針を策定済みと回答しています*7。また多くの企業は人権方針とともに調達方針を策定しており、サプライヤーへの働きかけを行っています。サプライヤーへ行動規範遵守を要請するのに加え、定期的なCSRアンケートやCSR監査を実施し、サプライヤーの人権配慮を具体的に求める動きが日本企業の間でも出てきています。

昨今、日本企業が関係する人権問題として大きく注目されるのは、①業務委託先やサプライヤーの工場で起きる人権侵害、②国内の外国人労働者や海外の移民労働者の問題、でしょう。①の最新の事例としては、中国の新疆ウイグル自治区における強制労働リスクや*8、ミャンマーの軍事クーデターに対する企業の対応などが国際社会から注目されています。

②の外国人労働者に関しては、2019年に大手エレクトロニクス企業が技能実習計画とは異なる単純労働をさせていたとして、技能実習適正化法違反で厚生労働省から改善命令を受けています。その他大手自動車メーカーなども改善命令より更に重い、技能実習計画の認定を取り消されるケースが出ています*9。

厚生労働省が2020年10月に発表した調査結果*10では、実習生などから相談・通報を受け、全国の労働局および労働基準監督署が立ち入り調査を行った9455の事業場において、71∙9%の事業場で、労働基準法などの違反が確認されたということです。技能実習制度は国際的にもその人権リスクが指摘されており、米国務省は2021年6月に発表した世界の人身売買に関する年次報告書で、外国人技能実習制度や児童買春を含む性的搾取・労働搾取の問題を繰り返し取り上げています。

技能実習生に関する人権侵害は、サプライチェーンの上流である中小企業で発生しているケースが多く、川下に位置する大企業にとっては目が届きにくいことが課題です。そのような状況を受け、サプライチェーンにおける外国人労働者への人権対応を狙いとして、小売り大手のイオンは2021年2月1日、生産委託先やサプライヤーの従業員が人権侵害を受けた際に相談できる窓口「お取引先さまホットライン」を開設しました。サプライチェーンの末端でも活用できる苦情処理メカニズムを作るのは、日本の小売りでは初めてだということです*11。原材料の生産から販売まで、サプライチェーンの全工程に従事する労働者を対象とし、外国人労働者も利用できるよう8言語での電話対応を準備しています。

中小企業は投資家からの視線に晒されることがない分、人権配慮の必要性を感じにくいのが実態です。しかし彼らのサービス、商品がサプライチェーン上のどこかでイオンのような上場企業あるいは欧米企業と関連する場合、今後取引先から人権配慮の要請を受ける可能性があります。小売り大手のイオンが全サプライチェーンを網羅した苦情処理システムを構築したことで、中小企業の人権への取り組み姿勢は今後変化していかざるを得ません。適切な人権対応を示すことができるかどうかが中小企業の信用性を左右し、その後の取引関係に影響する可能性が出てくるからです。

人権への配慮が、大手企業にとっては株式市場からの評価、中小企業にとっては取引関係に影響するようになり、経営戦略として取り組まざるを得ない状況になりつつあります。それは即ち、企業にとって人権対応はリスクである一方、チャンスにもなりうるということです。日本企業にはぜひ「ビジネスと人権」を企業の持続的成長に向けたチャンスとして捉え、取り組みを推進していただきたいと思います。

日本企業の取り組み推進に向けて

それでは企業の現場で求められる人権対応とは具体的に何を指すのでしょうか? 「人権」という響きから、堅苦しく難しい対応が求められる印象があるかもしれませんが、実は特別なことが求められている訳ではありません。企業における人権対応とは、基本的には人を大切にすること、従業員や利害関係者の人としての尊厳を守ることです。ただしそれが掛け声だけではなく、いかなる状況下でも組織の中で機能し、守られるようなメカニズムを構築していくことが求められているのです。

具体的に国際的な枠組みにおける「ビジネスと人権」で求められる内容は、「強制労働の禁止」「児童労働の禁止」「差別の撤廃」「結社の自由・団体交渉権の承認」という、ILOの中核的労働基準がベースとなっていますが、中でも日本企業にとって侵害リスクの高い分野としては、過労死にもつながりかねない「長時間労働」、技能実習制度で問題になる「強制労働」、昨今問題山積の感のある「ハラスメント」、古くて新しい問題である「ジェンダー」があげられます。企業は、国内における関係法令を遵守するのはもちろん、国際的に求められる労働基準も考慮した上で、企業内の人権方針および対応策を検討していく必要があるでしょう。

ILO駐日事務所は、今後、「ビジネスと人権」に関するさまざまなサポートを実施していく予定です。例えば、日本繊維産業連盟と協働して「ビジネスと人権」に関する業界ガイドラインの策定作業を開始します。その他繊維産業以外の業界団体や個別企業レベルの取り組みにも可能な限り協力していきたいと考えています。

ILO駐日事務所は、ILOの理念である”全ての人のディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)実現”に向けて、日本企業の「ビジネスと人権」への取り組みの推進を働きかけていきます。

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*1:https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2015/opinion_150107_2.pdf

*2:https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/03/eb91a6b95061f273.html

*3:ヨーロッパ系のアパレルメーカーやユニクロも含む220社以上が署名するAccord on Fire and Building Safety in Bangladesh、米国系のアパレルメーカー約30社が参加する、Alliance for Bangladesh Worker Safetyの二つが成立しました。

*4:https://jp.techcrunch.com/2020/12/20/2020-12-19

*5:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100104121.pdf

*6:https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/feature/00062/

*7:https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/095_honbun.pdf

NGO等からの指摘を受け、日本の主要小売り・製造業12社が、少数民族ウイグル族に対する強制労働への関与が確認された中国企業との取引を停止する方針を固めました。

*8:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-22/QOWP1VDWRGG501

*9:https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/feature/00062/

*10:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13980.html

*11:https://www.aeon.info/sustainability/contact/




2022.1 掲載

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