ひろげよう人権|東京人権啓発企業連絡会

クローズアップ

有識者から当会広報誌「明日へ」に寄稿していただいた記事の転載です

渡邉貴史:人権尊重都市・東京の実現を目指して

プロフィール

東京都 総務局 人権部 人権施策推進課長
渡邉 貴史(わたなべ たかし)

1991年、東京都入都、主税局江戸川都税事務所に配属
その後、清掃局、環境局、中央卸売市場等を経て、2014年7月より現職

人権をめぐる東京の状況

日本の全人口の約10%である1300万人を超える人口を有する東京は、急速かつ大規模な高齢化の進行という他地域にない特徴を有する一方で、人口減少といった他の地方自治体と同様の課題を有する地域も存在しています。
また、都内に住む外国人は約45万人(平成28年1月1日現在)と約30人に1人を占めており、様々な国から多様な文化や価値観、ライフスタイルを持つ人々が東京に集まっています。
これら多様な側面をもつ東京では、社会・経済状況の変化の影響を受けやすいことなどから、人権課題の複雑多様化が一層進んでいます。
東京都は平成12(2000)年に、人権施策を総合的に推進する「東京都人権施策推進指針」(以下「指針」という。)をはじめて策定しました。そこでは、人権課題として「女性」、「子ども」、「高齢者」、「障害者」、「同和問題」など9課題を掲げました。その後、15年経過する中で様々な新しい人権課題が注目されるようになりました。
平成25(2013)年に東京都が実施した「人権に関する世論調査」では、「高齢者」、「女性」、「子供」などに加えて、「インターネットによる人権侵害」、「北朝鮮による拉致問題」、「震災に伴う人権の問題」、「性的マイノリティ」等の新しい人権課題への都民の関心が高まっていることが明らかになっています。さらに、特定の民族や国籍の人々を排斥し、差別意識を生じさせることになりかねないヘイトスピーチが社会的問題となっています。
東京都は、平成26(2014)年12月に策定した「東京都長期ビジョン」において、目指すべき将来像を「『世界一の都市・東京』の実現」とし、「生活習慣・文化・価値観などの多様性や人権が尊重され、誰もが幸せを実感できる都市、誰もがそこに住み続けたいと思う都市こそが、真に魅力的な都市である」としました。
平成32(2020)年には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。「オリンピック憲章」では、オリンピックは人権に配慮した大会であることがうたわれています。
東京は、都市や社会のあり方等に関して、国際社会からこれまで以上に人権尊重の理念の実現が求められています。

これまでの啓発事業

東京都総務局人権部は、人権施策の企画立案などを担う企画課と、人権尊重の普及啓発・研修等を担う人権施策推進課で構成されています。都民一人一人が様々な人権課題を正しく理解し、人権尊重の意識が日常的な行動や態度につながるように、あらゆる機会を捉え、総合的な人権啓発を実施しています。
憲法週間(5月)、人権週間(12月)に合わせたイベントでは、毎回人権課題のテーマ設定を行い、講演会、映画上映等を行っています。スポーツ・文化団体等と連携した啓発にも力を入れており、例えば、Jリーグやプロ野球の試合会場では、選手が出演する人権啓発映像を上映し、人権啓発冊子や物品を配布しています。また、交通広告を活用した小学生の人権ポスター啓発や、拉致問題の都民集会・パネル展・都庁ブルーリボンライトアップなどを実施するとともに、「みんなの人権」をはじめとする啓発冊子の配布や、ツイッター、動画配信サイトなど多様な手法を凝らして情報発信を行っています。
そのほか、東京都の監理団体である公益財団法人東京都人権啓発センターも人権部と連携し、民間団体の持つ機動性や効率性、柔軟性を活かして、積極的かつ効果的な人権啓発を展開しています。

「東京都人権施策推進指針」の改定

「東京都長期ビジョン」に示された「世界一の都市・東京」の実現を目指し、東京における人権を取り巻く状況を踏まえ、東京都は、都民一人一人に人権尊重の理念が浸透し、東京で人権尊重の理念が実現するよう、昨年8月、15年ぶりに指針の改定を行いました。

指針(図1参照)では、「人権施策の基本理念」として(1)人間としての存在や尊厳が尊重され、思いやりに満ちた東京、(2)あらゆる差別を許さないという人権意識が広く社会に浸透した東京、(3)多様性を尊重し、そこから生じる様々な違いに寛容な東京の3点を掲げています。そして、「施策展開に当たっての考え方」を明らかにするとともに、「人権課題ごとの現状と施策の方向性」を示して、従来の9課題に「インターネットによる人権侵害」、「北朝鮮による拉致問題」、「災害に伴う人権問題」、「ハラスメント」、「性同一性障害者」、「性的指向」及び「路上生活者」を新たな人権課題として加えました。

人権課題を解決するための「施策の進め方」(図2参照)としては、第一に(1)啓発・教育、(2)救済・相談、(3)支援・連携の3つの観点からの「総合的な人権施策の展開」を、第二に「民間団体、国、他自治体等との連携」を掲げています。人権が尊重される社会を作るためには、企業をはじめとする多様な主体の参画による社会の連帯の力が必要で、そのためにはそれぞれの主体性や自主性を尊重しながら、中立・公正の立場から連携していくことが必要です。
指針ではさらに、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて、人権尊重の理念が浸透した社会を実現するための起爆剤としての取組を計画的に推進」する、としています。そのための重点プロジェクトとして、(1)人権尊重都市「東京」を内外に発信、(2)大型啓発キャンペーンにより都民の人権意識を醸成、(3)中立・公正の立場から人権施策を推進するための第三者機関の設置及び(4)人権啓発拠点「東京都人権プラザ」の機能強化の4つを掲げています。

企業と人権

近年、企業の社会的責任(CSR)という考え方が定着しつつあり、社会の関心も高まっています。
このCSRは、企業の側だけではなく、ステークホルダーの側でも重視されるようになっており、無責任な行動をとる企業に対しては強い批判が寄せられ、大きなダメージを被る場合もあります。
また、社会経済情勢の変化等に伴い、人権課題を取り巻く状況は複雑多様化の度合いを増しています。企業の皆様がこの状況に直に向き合い、人権等の社会的課題に対し幅広い視野と鋭い人権感覚を持った人材を育成することや人権尊重の精神を職場の隅々に浸透させるための啓発など「人権に関する取組」を行うことは、企業を支える多くの人々の人権に配慮することになるだけでなく、企業の社会的イメージの向上や事業活動への良い波及効果をもたらすことになるものと考えます。
平成22(2010)年に発行された組織の社会的責任に関する国際規格ISO26000では、組織が社会的責任を果たすための7つの原則の一つに「人権の尊重」を掲げ、推進すべき7つの中核主題の一つとしても「人権」が位置付けられており、世界中の全ての組織において人権への取組の重要性がますます高まっています。
広く社会を支え活動する企業等には、自ら影響が及ぶ範囲を含め人権を尊重する責任があり、主体的に取り組むことが期待されます。企業は、事業活動と人権を分けて考えるのではなく、事業活動の根本理念やプロセスの中に、人権への配慮を組み込んでいく必要があります。
東京都は指針に基づき人権施策の推進に取り組み、国際都市にふさわしい人権が尊重された都市を目指してまいります。しかし、人権に関わる取組は、行政が全てを担えるものではありません。そこで、企業が行う人権に関わる自主的な取組を促すとともに、先駆性、機動性、柔軟性等において優れた企業の取組と連携した施策を推進することが重要であると考えており、とりわけ自主的な取組を積極的に推進されている東京人権啓発企業連絡会の皆様との連携がまさに重要であると認識しています。
これまでも、東京都総務局人権部のホームページ「じんけんのとびら」において、人権に配慮した先駆的な取組を行っている企業の様々な事例を掲載したり、また本年1月には都庁・都民ホールで開催した「人権学習会」で、各企業の皆様から講演いただくなど、多大なご協力をいただいてきました。今後とも、より一層のご理解・ご協力を頂けますと幸いです。

ヒューマンライツ・フェスタ東京2015

今回のイベントの基本コンセプトとして、以下の3点を設定しました。
(1)東京都の実情を踏まえたタイムリーなテーマ設定
「多文化共生社会の実現」をメインテーマに設定し、来場いただく方々の関心を高めるとともに、東京都の姿勢を効果的に発信する試みとしました。
(2)若い世代から高齢者まで幅広い層の方に向けた啓発
東京都が行う人権啓発イベントは、これまで来場者の年代等に偏りが生じてしまう傾向がありました。そこで、若者から高齢者まで幅広い世代の皆様に漏れなく人権尊重の理念を伝えるきっかけとするため、新たな企画を多数立ち上げました。
(3)人権尊重を広めるための様々な主体との連携
今回のイベントでは、多様な主体との中立・公正の立場からの連携の一環として、東京都人権啓発センターをはじめ、都内自治体、大学、NPO、各国大使館など、多種多様な団体の皆様と連携・協力を行いました。

これら3点の基本コンセプトを踏まえ、「ヒューマンライツ・フェスタ東京2015」を行った結果、以下の成果が得られました。

(1)東京都の実情を踏まえたタイムリーなテーマ設定については、都知事自らオープニング・メッセージを発信し、また駐日英国公使ジュリアロングボトム氏による講演や外国出身者等によるパネルディスカッションを行うなど、大規模かつ注目を集めるイベントとなり、多くのマスメディアにも取り上げられました。
さらに、株式会社栄鋳造所の鈴木社長に「ダイバーシティ経営を軸とした難民・外国人の戦略・戦力的雇用が拓く中小企業の海外展開」と題し、日本人と外国人が共に働き、共に活躍する企業の先駆的な取組について講演いただきました。

(2)若い世代から高齢者まで幅広い層の方に向けた啓発については、例えば、多文化共生の実現に向けた施策提言を行う「大学生プレゼンコンテスト」や民族舞踊を通じて世界の多様な文化を感じていただく「ヒューマン・ダンス・フェスタ」において、都内大学生が自ら参画し自ら多文化共生について考える契機となるとともに、幅広い年代層の注目を集め、集客力向上にも結び付けることができました。
また、NHKのこども向け番組でうたのおにいさんとして親しまれた坂田おさむさんと娘のめぐみさんによる「ファミリーコンサート」では、小さなお子様を連れたご家族の姿が多く見られ、啓発の対象の幅が広がっていることを感じることができました。

(3)人権尊重を広めるための様々な主体との連携については、東京人権啓発企業連絡会の皆様に、「企業と人権」の関係性、重要性についてどのように発信するかについてイベントの企画時点から参画いただき、イベント当日の運営も含め多大な協力をいただきました。
初日に開催された「企業と人権セミナー 元気発信!イキイキ職場から“ダイバーシティ社会”へ」では、(1)企業にとって人権って何だろう?、(2)ハラスメントを正しく理解し行動する、(3)国籍・文化の違いを超えての3つのテーマで、これからの企業にとって必要となる人権尊重の取組について講演をいただきました。当日は、会場の客席がほぼ埋め尽くされ、熱のこもったセミナーとなりました。また、美大生と連携した「人権アートプロジェクト」の展開にご尽力いただきました。

「アール・ブリュット」作品をイベントのシンボルマークに

「アール・ブリュット」作品をイベントのシンボルマークに 社会福祉法人愛成会からは、今回のイベントのシンボルマークとなった「アール・ブリュット」作品を紹介いただくとともに、フェスタ会場における「アール・ブリュット美術展」の開催についても全面的に協力をいただきました。
このほか、メインテーマ以外にも同和問題、ハンセン病など様々な人権課題に関する講演・セミナーを数多く実施するなど、「大型啓発キャンペーン」の名に恥じない規模で行うことができたものと考えています。3日間を通してご来場いただいた1万人を超える皆様に、少しでも「人権を尊重することの大切さ」や「多様性の重要さ」をお伝えできたとすれば、イベントの主催者としてこれに勝る喜びはございません。
しかしながら、複雑多様化が進む人権課題の啓発は一朝一夕に成果があがるものではありません。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、東京を開催都市にふさわしい「人権尊重都市」とするため、そして「世界一の都市・東京」を実現するため、「ヒューマンライツ・フェスタ東京」は継続的に開催する予定でおります。 最後になりましたが、今回の「ヒューマンライツ・フェスタ東京2015」にご協力いただきました全ての皆様にあらためて感謝申し上げたいと思います。

2016.7掲載

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