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医学博士 星野 仁彦 発達障害に気づかない大人たちへのプライマリー・ケア(初期対応)(その1)

星野 仁彦

●プロフィール

星野 仁彦
(ほしの よしひこ)

1947年福島県会津若松市生まれ
【専門分野】
・児童青年精神医学 ・精神薬理学 ・スクールカウンセリング
【経  歴】
1973年 福島県立医科大学卒業(神経精神科入局)
1984年~1985年 米国エール大学・児童精神科留学
2001年 福島学院短期大学教授・メンタルヘルスセンター初代所長
2003年 福島学院大学・福祉学部教授(初代学部長)
2012年 同大学副学長、現在に至る
【筆者著書】
「それって大人のADHDかもしれません」アスコム(2011年)
「空気が読めないという病」KKベストセラーズ(2011年)
「発達障害が見過ごされる子ども、認めない親」幻冬舎(2011年)
「発達障害に気づかない大人たち(職場編)」祥伝社新書(2011年)
「子どものうつと発達障害」青春出版社(2011年)
「大人の発達障害を的確にサポートする」日東書院(2012年)
「それって大人の発達障害かも?」大和出版(2012年)

はじめに

 発達障害は各種精神障害の中でも、本人にとっても周囲にとっても気づかれにくく、「見えない障害」であると言える。知的機能が低い知的障害者や低機能自閉症(広汎性発達障害)は、比較的早期(幼児期・学童期)に発見されて、医療・教育・福祉の対象になりやすい。しかし、いわゆる軽度(高機能)の発達障害である注意欠陥・多動性障害(ADHD)やアスペルガー症候群(AS)などの発達障害は障害と気づかれないまま、従って医療や特別支援教育の対象にならずに、親や教師からの過大なプレッシャーやいじめの対象になり、思春期・青年期になって、自己評価が低くなり不登校、反抗挑戦的行動、行為障害(非行)、うつ状態などを示して学校に不適応となることがある。更に彼らは成人になるとうつ病、不安障害、各種の依存症(アルコール、薬物、過食、浪費、ギャンブル)などに発展することも少なくない。

発達障害とは

 発達障害とは、注意力に欠け、落ち着きがなく、時に衝動的な行動をとるADHD、対人スキルや社会性に問題のある自閉症やアスペルガー症候群(AS)などを含む広汎性発達障害(PDD)、読む・書く・計算など特定の能力の習得に難がある学習障害(LD)などの総称である。これらは生まれつき、あるいは周産期のなんらかの要因(遺伝、妊娠中・出産時の異常、新生児期の病気など)で脳の発達が損なわれ、本来であれば成長とともに身につくはずの言葉や社会性、感情のコントロールなどが、未成熟、アンバランスになるために起こると考えられている。一言で言えば図1のように脳の発達が凸凹なのである。
 発達障害はけっして稀なものではない。いくつかの調査によれば、たとえばADHD、LDとされる子どもの割合は15歳未満で6〜12%にのぼる。

なぜ近年注目を浴びているのか

 近年、「発達障害」という言葉は世の中にだいぶ認識されてきた。マスコミや書籍で取り上げられることも増え、最近は医療界だけでなく、教育、心理、福祉など幅広い分野で注目を集めている。たとえば、2005年4月に発達障害者の自立と社会参加をめざす「発達障害者支援法」が施行され、2007年4月には「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ、2008年には「保育所保育指針」が40年ぶりに改訂された。また近年は、大学でも発達障害のある学生への支援体制を強化する動きが出ている。

 ADHD、LD、ASなどの軽度の発達障害が近年注目を浴びるようになったのは主に以下の理由があると思われる。

  1. 予想以上の高い比率で存在する
  2. ストレス耐性が弱く、不利な環境に対して反応を起こし、2次障害(不登校、非行など)や合併症(うつ病、不安障害、依存症など)を示すことがある
  3. 高校、大学は何とか修了しても、その後の就労と社会適応が難しい

 社会人となると、学生時代とは比べ物にならないほど高度で複雑な社会性やコミュニケーション能力を求められる。時には嫌な上司や苦手な同僚、取引先ともうまく付き合っていかなければならない。これは発達障害者にとって大変な難題であるため、多くの場合、社会に出ると仕事や人間関係で悩みを抱えたり不適応状態となる。

筆者が取りまとめた大人のADHDの基本的症状と随伴症状

【基本的症状】

  1. 多動(運動過多)…いつも落ち着きがなくソワソワしている
  2. 不注意(注意散漫)…気が散りやすく、集中できない
  3. 衝動性…後先考えずに思いつきで行動する
  4. 仕事の先延ばし傾向・業績不振…期限が守れず、仕事がたまる
  5. 感情の不安定性…気分が変動しやすい
  6. 低いストレス耐性…心配と不安が感情の暴発を招く
  7. 対人スキル・社会性の未熟…空気が読めず、人の話が聞けない
  8. 低い自己評価と自尊心…マイナス思考とつのる劣等感
  9. 新奇追求傾向と独創性…飽きっぽく一つのことが長続きしない

【随伴症状】

  1. 整理整頓ができず、忘れ物が多い…仕事はできても家事が不得手
  2. 計画性がなく、管理が不得手…低すぎる日常生活のスキル
  3. 事故傾向…交通事故、産業事故など
  4. 夜間の低い睡眠効率と昼間の居眠り
  5. 習癖…男性に多いチック症、女性に多い抜毛癖
  6. 依存症や嗜癖(しへき)行動に走る…アルコール、タバコ、薬物、ギャンブル、浪費、セックスなど
  7. のめり込みとマニアック傾向…パソコン、ゲーム、その他

 次に、米国で作成され、精神科医や臨床心理士が使用している診断基準であるハロウェルとレイティによる大人のADHDの診断基準を挙げてみる。

  1. 過去の成果に関わらず力が出し切れない。目標に到達していないと感じる(不適応感)
  2. 何事にも計画性がない(金銭、時間、書類、身辺の整理など)
  3. 物事をだらだらと先送りしたり、仕事に取りかかるのが困難(先延ばし傾向)
  4. たくさんの計画が同時進行し、完成しない
  5. タイミングや場所や状況を考えず、頭に浮かんだことを、パッと言う傾向
  6. 常に強い刺激を追い求める(新奇追求傾向)
  7. 退屈さに耐えられず飽きっぽい
  8. すぐに気が散り、集中力が無い。読書や会話の集中に心がお留守になる。興味のあることには非常に集中できる(過集中)
  9. しばしば創造的、直感的かつ知識が広い。ひらめきがある
  10. 決められたやり方や「適切な」手順に従うのが苦手
  11. 短気で、ストレスや欲求不満に耐えられない
  12. 衝動的または攻撃的
  13. 必要も無いのに際限なく心配する傾向
  14. 何事にも不安が強い
  15. 気分が変わりやすい
  16. 気ぜわしい、せっかち
  17. 耽溺(たんでき)の傾向(アルコール・薬物・ギャンブル・異性関係など)とマニアックな傾向
  18. 慢性的なセルフ・エスティーム(自尊心)の低さ
  19. 不正確な自己認識(認知)
  20. ADHDまたは衝動や気分を自分でコントロールしにくいなどの家族歴がある
    • 小児期にADHDだった
    • 他の精神障害あるいは疾患で説明のつかない状態にある

2014.12掲載

次回に続く

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