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金子みすゞ記念館館長 矢崎 節夫 「みんなちがって、みんないい」〜金子みすゞさんのまなざし〜 (その3)

☆はっと気づくこと、佇むこと☆


積った雪
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面(じべた)もみえないで

▲金子みすゞ(本名テル)
1903(明治36)年山口県大津郡仙崎(今の長門市)に生まれる/童謡詩人みすゞは26歳という若さでこの世を去った
〈写真提供:金子みすゞ著作保存会〉

 みすゞ仲間のひとりに、小田原でクリニックをしている山田洋介さんというお医者さんがいます。先日、お宅へおじゃました時、大きな古い時計がカチコチ時を刻んでいました。以前はなかったので尋ねると、おじいさんの時代のもので、動かずに、長い間しまってあったそうです。それが動きだすには、こんな話がありました。

 ある夜、クリニックから帰ってきて居間でゆっくりしていると、テレビから歌が流れてきた。30年代のなつかしい歌でした。いくつか聴くともなく聴いていて、えっ、と驚いたそうです。

 「その歌は『大きな古時計』という歌でね、聴いていて、えっ、それちがうんじゃないの。いまはもう動かない、と歌っているけど、そうではなくて、動かさないんじゃないの」と思ったというのです。

 この、えっと思うこと、はっと気づくことがすばらしいのですね。あの歌を聴いて、「ああ古いから、もう動かないんだ」と誰もが考えてしまいがちのなかで、動かないんじゃなくて、動かさない。壊れているなら直せるのではないか、と気づき、佇める、こんな友人を持って倖せだなとつくづく思いました。

 いま、山田さんの手で直されたおじいさんの時計は、カチコチ時を刻んでいます。「時計が動いた時、祖父の止まっていた心臓も再び動きだしたようで、祖父が生き返った気持ちがしてうれしかった」と語っていました。

 上の雪や下の雪は気づけるけれど、中の雪にはっと気づき、佇める人は少ないでしょう。人権とはいのちの権利ですが、なにげないことにはっと気づき、佇むことといってもいいのではないでしょうか。

☆あなたはあなたでいいの☆


私と小鳥と鈴と

私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面(じべた)を速くは走れない。

私がからだをゆすっても
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい

「みんなちがって、みんないい」 誰もがずっといってほしくて、誰もいってくれなかったことばです。

 「みんなちがって、みんないい」とは、一人一人がそれぞれに光輝いている大切な存在だということです。そして、「みんなちがって、みんないい」とは、あなたはあなたでいいのが最初だということです。私は私でいいんだは後です。私は私でいいんだから初めてしまうと、好き勝手でいい、人をいじめても、傷つけても、殺してもいいんだになってしまいます。これは「私とあなた」のまなざしです。自分中心、人間中心のまなざしです。みすゞさんのまなざしは、「あなたと私」ですから、あなたはあなたでいいのが最初です。

 こんなうれしいことばを、大人は自分の行動の正当化や失敗をごまかすために使いがちです。例えば、私がみかんを三つずつ割けるとして、自分の方に大きいみかんを三つ置くと、友人がいいます。「ずるいな、君の方が大きいじゃない」すると私は待ってましたとばかりにいうのです。「みんなちがって、みんないいんじゃないの」

 じつはこの時、「みんなちがって、みんないい」をいっていいのは、友人の方なのです。「ごめん、君のと交換しようよ」と私がいった時、友人が「いいよ。みんなちがって、みんないいのだから」と。
▲金子みすゞ記念館  「みんなちがって、みんないい」は自分自身に使う前に、まずあなたの方にむかって使うことばなのですね。

 すべての存在がそのままですばらしいと気づいた時に、「私」中心だったまなざしが、「あなた」に向かっていくのです。ですから、「私と小鳥と鈴と」という題で始まって、それぞれのすばらしさに気づいて、まなざしが変わって、「鈴と、小鳥と、それから私」と、私が最後にくるのですね。もう一度、「私と小鳥と鈴と」を声に出して読んでみてください。きっと、やさしい気持ちになることでしょう

 どうぞ、みすゞさんの童謡集を手にとって、読んでみてください。大好きなご自分に出合えることでしょう。そして、ぜひ山口県長門市仙崎にある、「金子みすゞ記念館」にもおでかけください。開館三年で約五十万人もの方が訪ねてきてくださる、こころうれしい記念館ですから。

※作品出典は「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より

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