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クローズアップ

(財)人権教育啓発推進センター 理事長 横田 洋三
「企業と人権 - 東日本大震災に思う」
(その1)

横田 洋三

●プロフィール

1979年 国際基督教大学教養学部教授
1988年  国連差別防止及び少数者保護小委員会代理委員
1991年  国連人権委員会ミャンマー担当特別報告者
1995年  東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授
2000年  国連人権促進保護小委員会委員
2001年  中央大学法学部教授
国際連合大学学長特別顧問
2003年 国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門家委員会委員
2004年 中央大学法科大学院教授
2006年 財団法人人権教育啓発推進センター理事長
2010年 国際労働機関(ILO)条約勧告適用専門家委員会委員長
法務省特別顧問
日本国際連合学会理事長
国際連合大学高等研究所客員教授

〔主な研究分野〕
国際法、国際機構論、国際人権法、国際経済法

〔主な著書〕
『20世紀と国際機構』国際関係基礎研究所、『日本の国際法事例研究(1)〜(5)』(共著)慶応義塾大学出版会、『新国際機構論』(共著)国際書院、『国連再生のシナリオ』(共訳)国際書院、『国連の可能性と限界』(共訳)国際書院、『国際法入門』(共著)有斐閣、『国際組織法』(共著)有斐閣、『国際機構の法構造』国際書院、『日本の人権/世界の人権』不磨書房、『国際人権入門』(共著)法律文化社、『国際社会と法―国際法・国際人権法・国際経済法』(共著)有斐閣 ほか

はじめに

 東日本大震災は、日本のみならず世界中を揺るがす大惨事となった。その中で、被災地の皆さまが困難を克服すべく力を合わせて日々努めている姿は、多くの人々に感動を与えた。また、日本の各地はもとより、世界中から寄せられた支援と励ましの数々は、どれだけ被災者の方々を勇気づけたことだろう。この未曽有の大惨事の中で、日本人が、いや人類全体が、一体感を共有できたことは、大きな救いであった。

震災は人道問題であると同時に人権問題でもある

生きてきたすべてが流された('11.4.気仙沼市で)
生きてきたすべてが流された('11.4.気仙沼市で)
 通常、今回の震災や津波、さらには干ばつ、台風、火山噴火などの自然災害については、国も自治体も人道支援の形で被災者救済に取り組む。できるだけ被害を少なくし、被災者の被った損害を救済するように努める。そのような取組みは、災害の原因が自然現象にあり、被害の原因をつくった直接の責任が国や自治体にはないという前提で、救援はできる限りの対応をすればよいという政治的・道義的責任の範囲で実施される。東日本大震災の場合も、規模が大きかったために公的対応も大規模にならざるを得なかったが、取組みの基本的考え方そのものは、人道的救済、政治的・道義的対応のレベルで行われた。

  しかし、一部の人権団体や活動家が問題提起したように、今回の震災には、このような人道問題の側面と同時に大きな人権問題が横たわっている。被災者の中には不幸にして尊い命を失った人、貴重な財産を無くした人、怪我をした人、持病を抱えて被災したうえ適切な治療が受けられず苦しんでいる人、適当な避難場所が確保できずに仮住まいしている人、被災直後には十分な食事や飲み水が手に入らず苦しんだ人、学校が津波で流され授業が受けられなくなった子どもたち、職場が被害に遭い失職した人などが数多くおられる。これらの人たちは、人道上の問題に苦しんでいるばかりでなく、生命に対する権利、財産権、身体の安全に対する権利、適切な医療を受ける権利、住居に対する権利、栄養価のある食べ物や安全な飲み水に対する権利、教育を受ける権利、働く権利などの人権が侵害され、しかも長い間救済されずに放置されている。

  このような人権侵害については、単に人道問題として人々の好意や善意に基づく支援の対象であるばかりでなく、直ちに権利回復や損害救済などの手当てを必要とする国や自治体の法的対応が求められる人権侵害問題のはずである。しかし、震災直後から今日まで、国や自治体の対応は、被災者を必ずしも人権侵害の被害者として意識的にとらえず、不幸にして被災した気の毒なひとたちとして、できるだけ苦しみを和らげ、復旧・復興に取り組むという人道支援としての救済・救援活動であった。その規模と政府をあげての取組みは、たとえば被災者から深く感謝された自衛隊による緊急支援活動に象徴されるように、高く評価されなければならない。しかし他方で、短時日で集められた多額の募金が、配分方針や使用方法に関する政府・自治体の手続き的遅れから長い間被災者に届けられず放置されたことに見られるように、また当時の災害復興担当大臣の「自分たちでやらなければ国は何もしない」と言う発言にも示されているように、緊急に対応が求められる人権侵害問題としての認識が極めて希薄であったことも否めない。

(写真は、(C)人権教育啓発推進センター)

次回に続く

  • 人権侵害救済の第一義的責任は国や自治体にある
  • 人権侵害救済に対する企業の責任

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