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あゆみ

グローバル時代における人権課題

小森 恵

●プロフィール

小森 恵
(こもり めぐみ)

反差別国際運動(IMADR)
事務局長代行

2009年から反差別国際運動事務局勤務。
現在、事務局長代行。
前職の部落解放・人権研究所国際担当の時より「職業と世系に基づく差別」のプロジェクトに関わる。

 反差別国際運動(IMADR)は2018年に30周年を迎えます。創設された1988年当時、日本では人とモノが国境を越えて自由に行き交う「国際化」が叫ばれ、世界では、反アパルトヘイトの世界的な運動が頂点に達していました。国連においても、人道に対する罪であるアパルトヘイトの廃止を促す取り組みが加速度を増していました。そのような時代を背景に、部落解放運動を起点として世界から差別をなくすことを目ざした反差別国際運動が始まりました。
 それから30年、世界ではグローバル化が進み、どこにいようとも環境、気候、戦争、難民、人権、経済危機を含むさまざまな問題はすべての人、コミュニティ、国、地域が共有する問題となりました。こうした変化はIMADRの運動にも影響を及ぼしてきました。グローバル時代における人権課題にどう向きあうべきなのか、IMADRの取り組みからみてみたいと思います。

前国連人権高等弁務官ナビ・ピレイさん(左端)とダリットの代表(2009年)
▲前国連人権高等弁務官ナビ・ピレイさん(左端)とダリットの代表(2009年)

カーストの壁を打ち破れ

職業と世系に基づく差別の撤廃のための原則と指針案 2009年、当時国連人権高等弁務官であったナビ・ピレイさんは、「世界が協力してアパルトヘイトの壁を壊したように、今、私たちは団結してカーストの壁を壊さなくてはならない」と声明の中で述べました。カースト差別を支えている概念は、「不浄」と「不可触」であり、それゆえにカースト差別の被害者であるダリット(「壊されし人」の意)は社会から隔離され排除されてきました。部落差別を含む類似した形態の差別が世界に存在することを確認する調査が、2000年、国連人権小委員会(当時)で始まりました。約5年かけた調査の結果、この形態の差別は南アジアや日本だけではなく、西および北東アフリカ、中東の一部にも存在することが確認されました。
  調査の結果まとめられた「職業と世系に基づく差別の撤廃のための原則と指針案」が国連人権理事会で採択されることをめざし、2007年よりIMADRおよび当事者の運動を含む世界のNGOは国連でさまざまなロビー活動を展開しました。その成果の一つとして、ナビ・ピレイさんの言葉がありました。この差別に影響されている人は世界で2億6千万人いると言われています。その中には、南アジアから世界各地に移住したディアスポラ※のダリットも含まれています。アパルトヘイトより歴史は古く、地理的にも広く分散しているこの形態の差別が、21世紀になっても地球規模で多数の人びとを苦しめている事実に対して、南アフリカ出身でインドにルーツをもつピレイさんは警鐘を鳴らしました。

※エルサレムからのユダヤ人の分散・離散を意味するギリシャ語に由来。現代においては国を離れて各地に散らばった移民あるいは移住先を指す。

マイノリティ女性のエンパワメントと「差別の交差性」

 カースト差別に影響を受けているコミュニティの女性たちは、マイノリティとして、そして女性として複層する困難な状況に置かれています。ダリット女性の問題は父権的なダリットのコミュニティにおいて表面化することはなく、さりとて女性差別の全体的な議論において取りあげられることはありません。2001年の国連反人種主義・差別撤廃世界会議(南アフリカ、ダーバン)で、IMADRはダリット女性、部落女性と協力して、世系とジェンダーに基づく複合的な差別に関してワークショップを開催しました。その後、日本において部落、アイヌ民族そして在日コリアンの女性たちがマイノリティ女性として独自の実態調査を実施し、女性差別撤廃委員会に問題提起を行いました。委員会は女性たちの状況が「差別の交差性」にあるとして、日本政府に実態調査を行うよう繰り返し勧告してきましたが、未だ調査は行われていません。ダリット女性たちはさらに暴力的な状況にさらされています。インドでは毎日3人のダリット女性がレイプ被害にあっています。ダリットは「不可触」であるとされてきたにもかかわらず、性暴力やレイプにおいては「可触」になるとダリット女性のリーダーは皮肉りました。世界のマイノリティ女性が声をあげ始めたことで、「差別の交差性」は国連の人権問題において見逃してはならない重要な側面となりました。

前国連人権高等弁務官ナビ・ピレイさん(左端)とダリットの代表(2009年)
▲ダリットの民間セクターにおける雇用に関する国際協議会(インド、デリー)

地球規模の課題に取り組む

 2017年3月、国連は「世系に基づく差別に関するガイダンスツール」を発行しました。2013年、国連は潘基文前事務総長のもと、「人種差別とマイノリティの保護」を国連のテーマである平和、人権、開発の3つの分野を横断する重要課題として位置付けました。インドではダリット人口の大半は開発の遅れた貧しい農村地域に住んでいます。開発スタッフがダリットについて正しい理解をもって仕事に臨むよう、このガイダンスツールが作られました。差別の問題は貧困問題でもあり、開発問題でもあります。2015年に採択された「国連持続可能な開発目標」(SDGs)の多くはダリットが直面する問題に関わります。目標1の「貧困に終止符を打つ」は貧困の連鎖から抜けることができない多くのダリットにとって深刻な問題です。目標4の「すべての人に質の高い教育」は、児童労働や人身取引の被害者であるダリットの子どもたちにとって最も手の届かないものになっています。
 目標5の「ジェンダー平等と女性、子どものエンパワメント」は先に述べた通りです。SDGsの達成は政府だけではなく市民社会の努力を必要としています。IMADRはこれまでカースト差別に人権の切り口から取り組んできましたが、国連のガイダンスツール発行や、SDGsの世界的取り組みに励まされ、開発や環境の視点からも捉えていきます。開発援助団体やビジネスセクターの協力も模索しながら、地球規模のこの課題にグローバルな視点から取り組むことが求められる時代になりました。

反差別国際運動(IMADR)
差別と人種主義の撤廃をめざすNGOとして1988年に設立された。1993年には国連NGO協議資格を取得し、国連人権諸機関に被差別マイノリティの声を届けながら提言活動を行っている。設立当初より、当事者団体、人権組織、企業(同和問題に取り組む全国企業連絡会)、宗教組織、労働組合、研究者などの支援と協力をえながら差別撤廃と人権伸長の取り組みを行ってきた。事務局は東京とジュネーブに。

世界を変えるための17の目標

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