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知識

ダイバーシティの推進を阻む
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とは

パク・スックチャ

●プロフィール

アパショナータ,Inc. 代表&コンサルタント
パク・スックチャ

米国ペンシルバニア大学経済学部BA(学士)、シカゴ大学MBA(経営学修士)取得。
米国系運輸企業にて太平洋地区での人事及び管理職教育を手がける。2000年に退社し、ワークライフバランスとダイバーシティ&インクルージョンヘの意識・風士改革及び教育に携わるコンサルタントとなる。
近年では「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」を日本で広めるための普及活動にも力を注ぐ。

「バイアス・偏見」と聞くと、
どのようなイメージを持ちますか?

 私たちの多くは、自分には良識があり、論理的に物事を考えられ、公平な判断をしているので「偏見は持っていない」と思っています。ところが数多くの研究から、人はみな偏見を持っていることがわかりました。
 アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とは、ある人や集団などの対象に対し、自身が気づかずに持つ偏った見方・考え方のこと。人間は誰もが偏見を持ち、それなりの機能があるため、悪いことではありません。私たちはつねに瞬間的に事実やデータに基づかず、人や集団を判断します。偏見自体は悪いことではないのですが、多くの場合、十分な事実に基づいていないため、さまざまな場面での意思決定にゆがみを与え、間違った判断に導いてしまうことが多々あるのです。
 近年、欧米でのダイバーシティ分野で「アンコンシャス・バイアス」が大きな注目を浴びています。最初の問題意識はアメリカから始まりました。アメリカでは数十年前から多様な人材の社会進出が進み、女性や他のマイノリティの存在感が増していきました。例えば「女性」の場合、組織での女性雇用が増え、男女の賃金格差が縮まり、女性の中間管理職比率も高まりました。ところがある程度まで到達した後は、上級管理職層の女性が期待したように増えず、ダイバーシティ推進の進捗が鈍化していったのです。
 その要因を究明すべく、多くの実験研究や調査が行われ、それらの結果より、アンコンシャス・バイアスが組織へ望ましくない影響をもたらし、ダイバーシティ推進の阻害要因となっていることが示されました。特に人に関わる採用、評価や昇進などの人材マネジメントヘ現れ、例えば女性や他のマイノリティの採用や昇進時に、人が行う評価や意思決定が正当に行われず、不利な状況に陥ることが明らかになったのです。

アコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の例

多くのリサーチから分かったポイント

1. 人間はみなバイアス・偏見を持っている
2. アンコンシャス・バイアスが、意思決定や評価にゆがみを与え他にもさまざまなネガティブな影響を職場にもたらしている
3. アンコンシャス・バイアスの影響は抑えることができる

 ダイバーシティを前進させるためには、さまざまな場面でもたらされるアンコンシャス・バイアスの影響を削減することが不可欠です。しかし、アンコンシャス・バイアスを完全になくすことはできません。その反面、良いニュースもあり、偏見の影響を抑えることはできるのです。

アコンシャス・バイアス(無意識の偏見)公演・研修概要

3つの対応策

1) 教育研修を実施する
 多くの欧米企業が第一ステップとして実施していることはアンコンシャス・バイアス研修を提供し、偏見への社員の知識と意識を高め、偏見対応への行動を起こすよう促すこと。まずは社員自身がアンコンシャス・バイアスを持っていることを認めることがカギ。「無意識」に対して「意識」することで、偏見に対しての適切な対応へつなげることができます。また、特に意思決定権限を持つマネジメント層の意識を高め、行動を変えることが大切です。

2) 職場に存在する偏見を見極める
 偏見の影響を抑えるためには、職場でどのような偏見が起こりやすいのかを把握する必要があります。それはアンケートやインタビューなどで明らかにすることができますし、社員が偏見を指摘できる環境を築くことも効果的です。

3) 仕組みを作る
 面接、採用や意思決定などの活動において、ルールや仕組みを構築します。例えば、書類審査では、審査員へ応募者の写真、名前、性別や年齢は出さない。面接の評価項日を事前に明確に決め、応募者全員に同じ質問をする、など。

アンコンシャス・バイアス研修の様子
▲アンコンシャス・バイアス研修の様子
 さて、日本では中間管理職層でさえ女性比率が極端に低いことを踏まえると、「無意識」だけでなく、「意識」の偏見の影響も大きいと見受けられ、状況はより深刻です。女性の活躍を阻害する主たる要因として指摘される、仕事と家庭の両立や長時間労働の問題も確かにありますが、それらが解決しても、アンコンシャス・バイアスに対する意識を高め、適切な対応を行わない限り、女性活躍推進が頭打ちになることは、欧米の状況から推測できるでしょう。
 女性が活躍することは、組織だけではなく、社会にとっても有益なことを考えると、日本において女性活躍推進をもう一段階加速させるため、日本でもアンコンシャス・バイアスに取り組むことは避けて通れません。
 筆者は、組織がアンコンシャス・バイアスヘ取り組むべき理由は、公平性と客観性を確保することにより、ビジネスにとってより良い意思決定を行い、全社員が能力をフルに発揮できる組織を築くため、だと感じています。なぜならば、そうすることにより、

1)組織パフォーマンスが向上する
2)誰もが受容され、活かされる風土が浸透する(インクルージョン)からです。

 全社員が機会を均等に与えられ、公平に評価され、受容される環境作りに向けて重要なステップは、まず社員一人ひとりがアンコンシャス・バイアスの知識を身につけ、意識を高めること。そして意識を行動変革につなげていくことです。
 長年かけて数多くのリサーチが行われたアンコンシャス・バイアスは奥が深く、企業のみならず、社会全体にも関わる重要なテーマ。まさに今、日本でも本格的に取り組む時期に来ているのではないでしょうか。

2019.5掲載

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