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ハラスメント最新事情 ~決めるのはアナタではない~

金子 雅臣

●プロフィール

金子 雅臣(かねこ まさおみ)

東京都庁にて長年、労働相談に従事。
労働ジャーナリストとしての執筆のかたわら、’08年に一般社団法人職場のハラスメント研究所を立ち上げ、企業向け講演、DVD制作などを手がける。
現在は、研究所所長の他、葛飾区男女平等苦情調整委員、日本教育心理学会、成蹊学園のスーパーバイザーなどを務めている。
◆著書:『壊れる男たち』(岩波新書)『部下を壊す上司たち』(PHP)
『職場いじめ』(平凡新書)『ホームレスになった』(筑摩文庫)
◆DVD監修:『マタハラのない職場づくりのために』(ASP)
『なくそう!職場に潜む心の病』(映学社)などがある。

ハラスメントが再び話題に

 2018年は何かとハラスメントが話題になった年として記憶されることになりそうである。国際的な#Me Too運動があり、国内ではある官僚のセクハラ事件をはじめとして、とある市長など地方自治体での事件も多かった。恐らく、1989年の「セクシュアル・ハラスメント」が流行語大賞を受賞して以来のハラスメントの注目度が高かった年だったといえる。

 そんな世相に敏感に反応したTVドラマの世界でも、開局55周年特別企画と銘打って「ハラスメントゲーム」というドラマが放映されて話題になった。私も、このドラマのハラスメント監修などをやらさせていただいて、あらためてハラスメントが様々に話題になっていることを身をもって知らされることにもなった。
 そんな制作現場でのこぼれ話であるが、皆さんは「カスハラ」「ジェンハラ」などというハラスメントをご存じだろうか。劇中でコンプライアンス室員である高村真琴が発するセリフに何度か登場した言葉である。
 正解は「カスタマー・ハラスメント(顧客から受けるハラスメント)」「ジェンダー・ハラスメント(オンナのくせに、オトコのくせになど、性別決めつけによるハラスメント)」の省略形である。さすがに「こんなわかりにくい言葉の使用は止めた方がいいのでは……」というのが私の意見だったが、現場は流行らせることも計算してか使用に踏み切った。
 結果は、それなりの認知を受けて、今やある程度の人たちの理解できる言葉になりつつある。まさに流行、マスコミの力あなどるべからずというところだろうか。今や30数種あると言われるハラスメントであるが、こうした広がりがやや鬱陶しいという言葉も聞こえてき始める昨今である。

 しかし、そもそも「ハラスメント」の語源が「悩まされる」「困らせられる」というものであれば、現代社会にこうした種が尽きない限り、言葉は増え続けるのも仕方がないことかもしれない。その一方で、こうした広がりがありながらも、様々な事件を通じて、依然として、その本体が見えていないことも明らかになったような気もしている。
 まさに流行語大賞の年から30年、依然として理解が進まない日本は今や、こうしたハラスメントの理解できない、つまり人権意識の低い国として国際的にも注目されはじめている。世界経済フォーラムが1年に1回発表するジェンダー指数でも100位以下のポジションを堅持し、「先進国中での下位」という表現は、今や「世界の下位」という評価に定着しはじめている。

 なぜ、こんなことになっているのか。なぜ、ハラスメントが理解できないのか、2018年の出来事のなかで、もう一度ハラスメントとは何かを考えてみることにする。

被害相談

時代錯誤発言も

 冒頭に申しあげたある官僚のセクハラ発言は、いろんな意味で世間にショックを与えた。週刊誌報道によれば追っかけ取材をしていた女性記者に「胸を触っていい?」「手縛っていい?」などというトンでも発言をしたということだから、まさにセクハラということになったわけである。

 ところが、この報道を受けて官僚のトップともあろう人がどうしてこんな下品な発言をするのかという驚きもさることながら、その官僚が「セクハラには該当しない」と釈明したことに2度驚かされたというところだろうか。
「時には女性が接客しているお店に行き、お店の女性と言葉遊びを楽しむようなことはある」と弁明して、その場面が行きつけのバーかキャバレーのような場所であることを認め、あくまで「言葉の遊び」だったと主張した。つまり、日本の多くの男性がしているように時間外にそうした場所に飲みに行って言った言葉であり、世の男性たちが皆していることなのに、なぜ私だけが問題になるのかということである。

 こんな官僚をかばった担当大臣の相次ぐ発言も問題になった。「本人も認めていないし、事実かどうかわからない」からはじまって「調査する必要もないし、処分するつもりはない」などと言った。つまり、「たかが言葉のセクハラで処分しなければならないのか」ということである。
 さすがにこうした発言は「何時の時代の感覚か」などとマスコミから叩かれて、「行為者にも人権がある」「ハニートラップだという人もいる」などと逃げに回り、最後は「日本にはセクハラ罪はない」などと開き直ったが、何をかいわんやという感じである。

 もはや、世界的にも法律でセクハラを禁止する国は60カ国を超えており、まさに先進国の多くは法規制を強めている。担当大臣の頭には、こうした時代感覚はなく、依然として押し倒したり、強引にキスをしたり、身体に触ったりしたらダメだが、たかが言葉なら実害がないし別に問題ない……ということだろう。しかし、そんな理解ではあまりにも時代錯誤もはなはだしいということになる。

2019.8掲載

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