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クローズアップ

金澤 泰子 『闇の中にこそ光がある』〜ダウン症の書家(娘)と私(母)の27年〜(最終回)

希望は誰にでも

 一度限りと思って開いた個展ですが、大勢の方々に来ていただき、多くの方々が涙を流して感動してくださいました。そして翔子の生涯一度限りと思っていた個展は、その後、いろいろな方面からのご要望があり、7年余り経ち、100回以上もの個展が全国で開かれました。もしあの時、順調に作業所に通えていたら翔子の運命を変えたこの個展は開かれなかったでしょう。

 「陰と光は同時に用意されているものなのだ」と思いました。そしてその後、ライブを行っています。人前で書くなんて、静かに地道に書をしてきた翔子にとって難しすぎる事だと思っていました。席上揮毫(※)の要請はお断りしていたのですが、私の師匠に、「ダウン症の娘がこんな良い字が書けるなんて誰も信じてくれないだろうから、書け!」と言われて、泣く泣く大きい字を人前で書きました。それが今ではとても喜ばれ、全国、津々浦々、縦横無尽に個展と席上揮毫を行っています。

 数限りなく何処へ行っても多くの方、特に障がい児をお持ちの家族の方が喜んでくださるので、私は翔子を連れてどこへでも行き、翔子が書いて、私が講演をしています。『知能がなく、歩けないだろうといわれた子でもこんなに元気に喜びをもって生きています』ということを見ていただき、知的障がい児を授かった方々に、少しでも希望の光になれたらと、活動をしています。

 私が翔子を授かった時は障害があることで、希望がなく、苦しみました。泣きながら育ててしまったことが悔やまれるので「大丈夫! 希望は誰にでも用意されています」と講演をして全国を回っています。障がい児を授かった母たちの悲しみを少しでも和らげたい。私の来た道だからその悲しみも、辛さもよく分るので、「困難に出会ったらそこで逃げずに真摯に向き合って生きて下さい」と言い続けています。『その困難な闇の中に必ず光が見えてくる。闇の中にこそ光はあるのだ』と私は思います。幸せに過ごせる日々はそれはそれで充分にいいのだけれど、お祭りだけの人生は無いように、ただ楽しいだけでは、大きな光は見えないのではないでしょうか。

 今、翔子と私は、いきいきハツラツと、喜びの中で生きています。『生きてさえいれば、絶望はない』というのが私の27年間、翔子を育てて獲得した実感です。人生には何が潜んでいるかわかりません。翔子の人生にはこれからも苦しいことが待ち受けているかもしれません。それでも、私は、そこに新たな活路を見出そうと思います。闇の中には大きな光りがあるということを知ってください。そのことを知れば、どんな状態に追いやられても活路を見出だすことができます。

※席上揮毫(せきじょうきごう):人々の集まる会場で、目の前で大きな字を書くこと

2013.11掲載

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