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クローズアップ

金子みすゞ記念館館長 矢崎 節夫 「みんなちがって、みんないい」〜金子みすゞさんのまなざし〜 (その2)

☆こだまし、うなづくこと☆



こだまでしょうか

「遊ぼう」っいうと
「遊ぼう」っいう。

「馬鹿」っいうと
「馬鹿」っいう。

「もう遊ばない」っいうと
「遊ばない」っいう。

そうして、あとで
さみしくなって

「ごめんね」っいうと
「ごめんね」っいう。

こだまでしょうか、
いいえ、誰でも

1903(明治36)年山口県大津郡仙崎(今の長門市)に生まれる/童謡詩人みすゞは26歳という若さでこの世を去った 〈写真提供:金子みすゞ著作保存会〉

 かつて、私たちのそばにいてくれる大人はきちんとこだましてくれました。ころんで、「痛い」といった時は、「痛いね」ってこだましてくれました。だから、痛みは半分になることができました。祖父母たちはもっと上手に、「痛いね、痛いね、かわいそうだね、ああ、痛いね」と、何度も何度もこだましてくれて、痛さを半分に、半分に、半分にしてくれた後に、「泣くのやめようよ」「がまんしようと」と、こちら側の、自分のいいたいことをいいました。ですから、きちんとこだましてくれる大人がいた時代は、誰のこころの中にもある、さびしさや悲しさやつらさという器をいっぱいにすることなく、この世を去れるようになっていました。

 しかしいま、私たちはこだます大人でしょうか。我が子がころんで、「痛い」といった時、「痛くない」「泣くな」といっていなかったでしょうか。少なくても私自身を振り返ると、「痛くない」「泣くな」といってきた、そんな気がします。

 このおとうさんなら、このお母さんなら愛してくれる、と思って生まれてきてくれた我が子です。その子の痛さを一方的に否定し、一方的に励ました時、その子の痛さは一度も受け入れてもらえずに、そのままこころの中のさみしさや悲しさやつらさという器に押し込めるしかなかったのです。

 だからいま、みすゞさんは甦えったといっていいでしょう。痛い時に、「痛いね」、つらい時に、「つらいね」とこだまし、うなずくことが、本当のやさしさなのです。やさしいとは漢字で、憂えている隣に添うように立って、共に憂えること、ニンベンのついた憂い、優しいと書くのです。

☆誰もがいてくれるだけでいい☆


詩

 「土」を読むと、地球にやさしいといってきた私たち人間は恥ずかしくなります。地球というお母さんの最後の子どもである人間だけが、地球というお母さんを傷つけてきたのです。そして、これ以上傷つけたら人間の生存が危くなる、と気づいたとたん、地球にやさしくしようなんていっているのです。本当は、こんなにお母さんである地球を傷つけてきたのに、いまだに置いてくれているほど地球というお母さんはやさしいのです。

ですから、地球にやさしいのではなく、地球はやさしいと気づくことから21世紀は始まるといっていいでしょう。

 地球というお母さんにとって、地球上のすべてのものは存在するだけでいいのです。人間にとっても同じです。私たちにとって子どもという存在はいてくれるだけでいいのです。存在してくれるだけでいいのです。この子どもという存在には、この文を読んでいるみなさんも入っています。

 なぜなら、私たちは誰もが、見えるいのちと見えないいのちの狭間で生きているからです。見えるいのちの繋りから見ると大人ですが、見えないいのちの繋り、両親や祖父母から見ると、いつでも変わる機会のある子どもであり、孫なのです。ですから、みなさんも子どもです。みなさんもいるだけでいいのです。

 しかし、残念ながらその理由さえ忘れてしまったのです。とても簡単な理由なのにです。

 「いまこの瞬間に、この地上から小学生か中学生以下の人が一瞬にして消えてしまって、新しいいのちが生まれないとしたら、みなさんは昨日と同じ今日を、今日と同じ明日を過ごすことができるでしょうか」

 世界中のほとんどの人が私と同じように絶望するしかないでしょう。なぜなら、私たち人類のいのちはあと数十年でなくなってしまうからです。

 私たち人間が絶望することなく、昨日と同じ今日を、今日と同じ明日を過ごすことができるのは、私たちのいのちを未来に運んでくれる、子どもという存在がいてくれるからです。だから、子どもはいてくれるだけでいいのです。大人を絶望させることなく、未来に夢や理想や希望まで持たせてくれる、本当にすばらしい存在です。

 ふうっと深呼吸して、思い出してください。誰もがいてくれるだけでいいのだと。

※作品出典は「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より

次回に続く

みんなちがって、みんないい
〜金子みすゞさんのまなざし〜(その3)

  • ☆ はっと気づくこと、佇むこと ☆
  • ☆ あなたはあなたでいいの ☆

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