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クローズアップ

株式会社クオレ・シー・キューブ代表取締役 岡田 康子 「パワー・ハラスメントとは」 (その1)

岡田 康子

●プロフィール

1954年生まれ
中央大学(文学部哲学科社会学専攻)卒業後、社会福祉法人武蔵野ユートピア、社会産業教育研究所を経て、1988年企業の人材育成プログラムの開発と講師派遣を業務とする(株)総合コンサルティングオアシスを設立。
1990年、「メンタルヘルスの支援サービスと各種調査会社」(株)クオレ・シー・キューブを東京中小企業投資育成株式会社の新規投資第1号と認定され設立。

人材開発協会認定キャリア・カウンセラー
早稲田大学アジア太平洋研究所MBA
産業組織心理学・ストレス学会・交流分析学会会員

主な調査・論文
◎女性の就業に関する調査報告
 (1991年東京中小企業投資育成)
◎女性企業家の日米比較(1992年産業組織心理学会)
◎24時間ホームヘルプサービスアセスメント調査

 男女雇用機会均等法改正から4年が経ち、セクシュアル・ハラスメントという言葉が認知されるに伴い被害者も声を上げ始めた。そしてセクハラ対策を真剣に検討する企業が増えてきた。しかしながら「この忙しいのにセクハラ研修か」という声や、「私にはセクハラなんて関係ないわ」という女性の声も未だに聞かれることも現実である。セクハラ問題を「性的なからかい」や「性的関係の強要」と捉えて、自分とは無関係と思っている人はまだまだ多い。しかし、セクハラ問題を放置することは損害賠償という直接的損失に止まらず、企業イメージの悪化や信用失墜など損失は莫大である。そして、相手の嫌がる行為をしたり、その行為を容認するという風土は「何かおかしい」という社員の健全な意識まで隠蔽してしまっているのではないだろうかと考える。

 このところ相次ぐ致命的な企業不祥事の発端は、おかしな考えや行動を容認し続ける組織風土が生み出したものではないだろうか。そういう意味でもセクハラ問題を、「ちょっとしたこと」「単なる変質者や一部の女性の問題」として扱わないことが重要であると考える。

 私どもでは、企業の委託を受けてセクシュアル・ハラスメントの相談窓口や研修を行っているが、その中でセクシュアル・ハラスメントの範疇では捉えきれない相談や意見が男性社員からも多く投げかけられた。「職場の飲み会を断ったら上司から嫌みを言われ続け、‘付き合いの悪い奴’として仲間外れにされている」「仕事で自分の意見を言ったら、次の日から‘生意気だ’‘カッコつけてる’などと先輩や同僚から非難の的になっている」というようなものであった。そこで、職場にはセクハラだけでなく多くのハラスメントが存在しているのではないかと考え実態調査をしてみようということになった。この調査を行うに当たり、職場におけるこのような有形無形の圧力を「パワー・ハラスメント(以下パワハラ)」と名付けて、2001年に電話相談やホームページのアンケートを通じて相談や意見を受け始めた。これに対して多くの反響をいただいた結果、上司からの執拗な叱責や、同僚からのいじめを経験したことのある人が予想以上に多いことが判明した。

 私どもは、パワハラとは『他者に対して社会的勢力を利用し、職務とは直接関係のない、あるいは、適切な範囲を超えた嫌がらせの働きかけをし、それを繰り返すこと。そしてその行為を受けた側がそれをハラスメント(嫌がらせ)と感じたとき』に成立する、と定義している。

 業務や報酬を与える権利を有する人とそれに従う人、ある集団を率いる人とその集団に所属したいという気持ちを持つ人との間には大抵の場合心理的なパワーの差がある。優位な立場の人がこのパワーの差を利用して相手にハラスメントを行うことをパワハラと呼んでいる。そもそもリーダーには強力なパワーが必要で、職場にはパワーの差があって当然である。私たちはパワー自体ではなく、それをハラスメントに利用することを問題としている。そしてパワハラは特殊な組織や職場だけではなく、どこにでも起こる可能性があるのではないかと考えている。

男性もハラスメントを受けている

 高度経済成長を支えたものづくり中心の時代には設備が企業の重要資産であり、その多寡が企業業績に影響していた。そこでは画一性・効率性・正確性が重視され、働く人の個性はむしろ埋没していた方が良かったのかもしれない。しかし、産業のハイテク化、ソフト化・サービス化によって企業の力は働く人の個性や能力に依存する割合が増えた。工業時代の働く個々人に対する評価の仕組みは、個人の個性や能力よりも、「集団の中での調和」に重点をおく傾向があった。産業構造の変換にともない、個の強化と個を評価する基準も大きく変わる必要がある。それに伴って工業時代に最適化した組織体制や組織風土は大きな転換期を迎えている。また、経済のグローバル化に伴い、この10年の間に、様々な人種や宗教、多様な価値観を持った人たちが共に仕事をする機会も格段に増えてきた。このような多様性を許容しつつ業務を遂行する必要があるにもかかわらず、未だに多く企業は従来型の組織体制のままである。

 また、均等法の改正による女性の職場進出が進む中、性別による雇用差別・業務差別の禁止はもとより、セクハラ対策も重要となっている。経団連は2002年10月に発表した「企業行動憲章」の中で、「従業員のゆとりと豊かさを実現し、安全で働きやすい環境を確保するとともに従業員の人格、個性を尊重する」という指針を示した。その中の「人権の尊重と公平な処遇」において、セクシュアル・ハラスメントへの配慮に関する明確なアクションプランが示されているにもかかわらず、「セクハラを受けたことを抗議したら、仕事を減らされた」「わが社では女性は制服を着なければならない」といった性差別が未だに存在しているのは残念なことである。

 一方、男性からは「女性はセクハラについて法律で守られているが、男性の人権は守られていない」という声も届いている。膨大な量の仕事を自分一人だけに押し付けられたり、仕事上のミスを注意するのに人格を否定するような発言がなされるなど、上司や職場集団による嫌がらせや圧力を受けているのは女性ばかりではない。男性もその被害者に十分になり得るのである。そういう意味で、セクハラはパワハラの一つのカテゴリーと位置付けられる。

 産業構造が大きく変わりつつある中で、そこに働く人々の意識だけが取り残されたままになっていることがパワハラ問題を生ずる原因だと考えられる。

<公開相談アンケート>
パワハラ図表

※図の詳細は次回8月号で

次回に続く

「パワー・ハラスメントとは」(その2)
  • 人権問題としてのセクハラとパワハラ
  • 諸外国のパワハラ問題
  • どこにでもあるパワハラ

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