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レッツトライ

手話ゲームで脳トレ
~みんなが笑って暮らせる社会のために~

中野 佐世子

●プロフィール

NHK手話ニュースキャスター
中野 佐世子
(なかの さよこ)

 1990年にスタートしたNHK教育テレビ(現在のEテレ)「手話ニュース」のキャスターとなり、現在も出演中(毎週木曜日午後1時~)。また、バリアフリー啓発研修講師として、全国各地の人権講演会や企業や官庁の研修で講師も務めている。
 関西福祉大学客員教授、東京家政学院大学非常勤講師(障害児保育)、淑徳短期大学兼任講師(聴覚言語障害者とのコミュニケーション方法)を務めるほか、ルーテル学院大学や東京薬科大学でも高齢者や障害者との接し方等についての講義を行っている。
 2000年・2003年に「手話ソングブック」1・2を出版。2006年には「手話ゲームブック」を出版し、手話との新しい出逢い方、楽しくすぐに覚えられる方法などを提唱している。2015年、誰もが笑顔でいられる社会を目ざして、「ハッピーコミュニケーションのすすめ」を出版。

 「閑さや岩にしみ入る蝉の声」という松尾芭蕉の句でも知られる山形県の立石寺(通称「山寺」)。この参道の途中で「ころり往生阿弥陀如来」と言う文字を目にしたことがあります。千年以上前から人々は、亡くなる直前まで肉体的にも精神的にも健康であることを願っていたのですね。

 当時の平均寿命が何歳くらいであったのかは分かりませんが、今や日本人の平均寿命は女性86.61歳、男性80.21歳。鬼籍に入るその日まで身体も脳もピンピンしていることの難しさを、私たちは痛感しています。

 「手は第2の脳」と言われ、手指を使う体操は、テレビや新聞などで度々紹介されてきました。小文を読んで下さっている皆様の中にも、テレビを見ながら思わず一緒に手を動かした経験のある方も多いのではないでしょうか。

 一説にはただ指を動かすのではなく、目的を持って苦労しながら手指を動かす編み物や料理などは前頭前野の活性化に繋がり、認知症の予防に役立つ可能性がある、とも言われています。だとしたら手話を考えながら手指で表現し、同時に声も出して行う「手話ゲーム」は、画期的な脳トレーニングと言える?かもしれません。

 では「手話ゲーム」とはどのようなものを言うのでしょうか?特別な定義はありません。皆さんが普段リクレーションで行っている遊びやゲームに、ほんの少し手話を加えてみるだけですぐにできるものです。

 例えば、子どもの頃に好きだった手遊び歌「グー・チョキ・パーで何作ろう?」では「♪右手がチョキで左手もチョキで~」で「カニさん」になりましたが、手話では「とんぼや会社」を表現できます。グーとグーなら「ラッコや苦労」、パーとパーなら「ペンギンや仕事」…といった具合です。このように手話単語をテーマ (動物、国名、食べ物、大人用語など) ごとにいくつか覚えた後、今度はこれを使って手話ジャンケンをします。「最初はグー」と言った時に「苦労」の手話をし、「ジャンケン『ポン』」で「会社」や「仕事」などの手話を出すわけです。簡単そうに思えますが、覚えたての手話を表現しようとすると案外難しく、間違えたりします。すると笑いが起こります。みんなが笑顔になります。これがポイントです。

 手話ゲームの場合、上手く表現しようとしたり、勝つことを目指す必要はありません。硬直してしまった脳に笑顔と明るい声を届け、新鮮な酸素を送り込むことが目的です。オリンピックで9個もの金メダルをとった、アメリカのカール・ルイス選手の必勝法が、笑顔で走ることだったのはあまりにも有名な話です。

 また、ネット上に無料で公開されている「脳トレーニング」の「色を答える」ゲーム等を利用する方法もあります。例えば「あか」と書かれているその文字が青色で書かれている場合には「あお」と答える様なゲームです。通常はパソコンをワンクリックして答えるのですが、手話ゲームでは、手話と音声の両方で答えます。この場合、あらかじめ色を表す手話(赤、白、青、黄、緑、茶、桃、黒)の表現を覚えて貰えば、簡単にできます。 

色を表す手話(赤、白、青、黄、緑、茶、桃、黒)の表現

 手話ゲーム後には受講生から「楽しかった」「思ったより難しくなかった」「友達と簡単にできそう」などの感想が多く寄せられます。研修初日でしたら参加者の緊張をほぐすのにも効果的です。何より2人で1つのゲームを共有し、視線を合わせて相手の反応を確認し合いながら進めることで、コミュニケーション能力が養われます。グループ対抗戦にすればメンバーの結束も高まるかもしれません。

 「手話ゲームブック」(鈴木出版、2006年発行)には、手話ゲームに歌を付けたものがたくさん紹介されています。この中には日常的に使用する「お会いできて嬉しいです。これからずっと宜しくお願いします。」という反射神経を使った手合せ遊びや、「すいません、席を換わってくれませんか?良いですよ。ありがとう。」などの会話を用いた寸劇ゲームもあります。歌の苦手な方にはCDも出ていますので聴いてみて下さい。思わず笑ってしまう楽しい歌です。

色鉛筆「はだいろ」ってどんな色ですか?

 「手話はどの位で覚えられますか?」とよく訊かれます。手話通訳になるには5年~10年は掛かります。でも、街中で出逢った聴覚障害者と「大丈夫?」「お手伝いしましょうか?」「ありがとう」などの言葉を交わしたいのであれば、そんな年月は必要ありません。

 手話ゲームに挑戦して、手話にふれてみませんか。コミュニケーションのツールがもう1つ増えることは画期的なことです。

 そして覚えた手話はあなたの人生を豊かにし、必ず誰かの助けになって、みんなが暮らしやすい社会を作っていく第一歩になる、私はそう信じています。

2015.12掲載

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