働く人のメンタルヘルス(その1)

 
  
岡田 ユキ
●プロフィール
1948年 東京生まれ、小田原・函館で育ち
1972年 東北大学医学部卒業後、岩手県立病院(内科・精神科)
東北大学付属病院(心療内科)
呉羽総合病院(心療内科部長)
梅田病院(院長)を経て
1991年 横浜労災病院心療内科部長に
2001年 横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長に就任
医学博士

【主な著書】
「ストレス一日決算主義」(NHK出版)
「メンタルヘルスマネジメント」(PHP研究所)
「自律神経失調症」(永岡書店)
「ストレス教室」(新興医学出版社)
「心の疲れを楽にする50のヒント」(ぎょうせい)などその他多数
ポートレイト


ストレスとは・・・

 最近、職場の中で不安や悩みを抱える人が増え続け、職場では心の健康、つまり、メンタルヘルス対策を進めることが課題になっています。皆さんの周りでも、また、皆さん自身が不安やストレスに悩んだり、ストレスから身体の調子を崩している人がいるのではないでしょうか。あるいは、どうやってストレスを解消したらよいかわからない方も多いでしょう。
 では、どのようにストレスとつきあっていけばよいのでしょうか。一般的に、ストレスは悪いものと考えられがちです。確かに、強いストレス・長く続くストレスによって、私たちの心や体の健康はむしばまれてしまいます。その一方、ストレスをただ悪者扱いしているだけでは解決策は出ません。
 通常「ストレス」というと、人間関係であったり職業上のものであったりと、心理的なものや、社会的なものを指すことが多いでしょう。しかし、それだけではなく、季節・天候や環境の変化、騒音や悪臭、病気など、自分では避けようのない要因も、ストレスとなるのです。つまり生きている以上、ストレス・ゼロという状況はありえない…ということなのです。だからこそ、そのストレスと上手につきあっていくことが大切です。そのためには、まず、「ストレスをためない」これが、私のポイントとなるメンタルヘルス対策です。ストレスをゼロにしようと無駄に努力をするよりも、たまったストレスをできるだけその日のうちに解消すること、なるべく持ち越さないことを心がけるほうが簡単なのではないでしょうか。こうした生き方を私は「ストレス一日決算主義」と呼んで、実践しています。
 皆さんのうち多くの方がしている「月曜から金曜まで働いて、週末にまとめて休息をとる」という方法は、現実には疲れがとれない方法でもあります。たまった疲れは週末の土日だけでは結局とれず、すぐ月曜になってしまいます。「また、月曜か、いやだな」と思い、会社に行きたくなくなる、そういうサラリーマンの患者さんを私はたくさん診てきています。
 こうした状況や自分の経験から、私は「一日決算主義の生き方をしましょう」と提案しているのです。これは何も特別難しいことではありません。ここで重要なのは、運動、労働、睡眠、休養、食事の5本柱(別表)を正常に保つこと、これが大事です。このことを心がけることで、ストレスを翌日に持ち越さない生活が送りやすくなります。ここで、ポイントとなるのは、あくまで「毎日」の生活の中で、5本柱を正常に保つ取り組みをするということです。「週末」にだけでは意味がありません。



健康的なライフスタイル
    
週単位の生活から一日決算主義の生活へ
毎日5要素をきちんととっているかチェックしましょう

「運動」 競技スポーツではなく、健康スポーツを
 一日15分でいい、仕事から離れて、いい汗をかく習慣を毎日もっていますか?
「労働」 働き甲斐は生きがいの源
 日々の活動に生きがいを感じていますか?自分の存在意義を感じていますか?
「睡眠」 寝つきがよい事、目覚めのよい事
 十分な睡眠は日中の活動レベルを上げる。早起き早寝の習慣を。
「休養」 休養は心の潤滑油。長時間労働を控えましょう
「食事」 朝食は一日の活動源、食卓を囲む習慣を。



講演


運動する習慣を・・・

 特に、運動は重要です。ここで言う運動とは、仕事からはなれた運動を指します。仕事からはなれて身体を動かし、汗をかくことです。したがって、仕事に伴う運動はここでは外されます。よく、このお話をすると、営業職の人は、毎日得意先周りで2時間ほど歩いていますという方がいらっしゃいますが、これはあくまで労働であって、運動ではありません。
 さて、運動習慣について注目すべき調査報告をご紹介しましょう。これは運動習慣がある人とない人の健康状態をチェックしたものです。被験者はすべてビジネスマンで、全体の4割が運動習慣のある人、残りの6割が運動習慣のない人でそれぞれに心身の健康に差があるかどうかを調べました。その結果、運動習慣のない人は、運動習慣のある人に比べて多くの項目において発症割合が高いことがわかりました。その症状は、背中のいたみ、胸焼け、疲れやすいといった身体的症状から、人ごみの中にいると気分が悪くなる、何をするにも億劫、朝起きると気分が悪いといった精神症状まで広範囲にわたりました。
 この調査の結果もさることながら、被験者は、すべてビジネスマンであるという点にも注目してください。普通に会社で働いているビジネスマンが、日ごろ運動をしているか否かで、これだけ多くの項目で差がでてしまったのです。改めて、運動は大切ですね。
 日ごろ運動と縁のない生活をされている方は、15分でかまいません。無理のない範囲でぜひ日常に運動を取り入れてほしいと思います。

  



運動習慣の有無による自覚症状の違い

身体症状 精神症状
・背中が痛む
・胸が痛む
・肩が凝る
・疲れやすい
・胸やけがする
・頭が重たい
・陰口をいわれているようだ
・人込みの中で気分が悪い
・寝つきが悪い
・何かするのにおっくうである
・朝起きると気分が悪い
・言いたいことがうまく言えない



《仕事のストレス要因チェック表》
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非常にたくさんの仕事をしなければならない
時間内に仕事が処理しきれない
一生懸命働かなければならない
かなり注意を集中する必要がある
高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ
勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない
からだを大変よく使う仕事だ
自分のペースで仕事ができる
自分で仕事の順番・やりかたを決める事ができる
職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない
私の部署内で意見のくい違いがある
私の部署と他の部署とはうまが合わない
私の職場の雰囲気は友好的である
仕事の内容は自分にあっている
働きがいのある仕事だ
=中央労働災害防止協会の資料から作成
※各項目とも「そうだ」「まあそうだ」「やや違う」「違う」の4段階で答える。
※(1)〜(7)と(11)〜(13)は「そうだ」「まあそうだ」
 (8)〜(10)と(14)〜(16)は「やや違う」「違う」をストレス要因として数える。
◇(1)〜(7)は仕事の負担度。ストレス要因が男6個以上、女5個以上は要注意
◇(8)〜(10)は仕事のコントロール度。2個以上要注意
◇(12)〜(14)は仕事の対人関係。2個以上要注意
◇(11)(15)(16)は仕事の適合性。2個以上要注意

 

次回に続く

働く人のメンタルヘルス
ストレス一日決算主義のすすめ(2)
  • 働き甲斐をもって仕事をする
  • 質のよい睡眠・休養をとる
  • 食生活を見直す

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