宮崎茂樹 (みやざき しげき)
●プロフィール
1925年
10月21日 
新潟県新発田市で出生
1945年
6月17日 
陸軍士官学校卒業(58期)
1949年
3月25日 
明治大学法学部卒業
1959年
4月 1日 
明治大学法学部教授
1975年
4月 1日 
明治大学法学部長
1987年
5月16日 
世界法学会理事長
1991年
12月 1日 
国際人権法学会理事長
1992年
4月 1日 
明治大学総長
1993年
3月 1日 
地域改善対策協議会会長
1997年
5月27日 
人権擁護推進審議会委員
1997年
5月29日 
財団法人 人権教育啓発推進センター
理事長
2006年
4月 1日 
同センター顧問

【著書】
「国際法における国家と個人」未来社
「人権と平和の国際法」日本評論社
「国際法綱要」成文堂
「世界の人権と同和問題」明石書店
「人権百科事典」明石書店
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人権の尊重

 考えてみますと、経済、環境の問題も、企業にとっては、そのステークホルダー(利害関係者)としての消費者、地域住民、株主、従業員、取引先の人権に関わる問題なのだと捉えることが出来るかと思います。企業がそれらの人々の人権に配慮して企業活動を進めることこそがCSRに沿うのではないでしょうか。事業を個人で進める場合、勿論業績をあげ利潤を得ることは大切ですが、人間として信用され、社会の一員として共存していくことが、長期的に必要なことは言うまでもありません。従業員に対しても、顧客に対しても、その人間性を尊重し、客に対しても、その人間性を尊重し、信頼を受けてこそ、持続的な事業の発展がありうるわけです。事業の主体が法人である場合にも、基本的には同じではないでしょうか。

 現在では、殆どの人が、学校を卒業すれば企業に就職します。そして、1日の主要な時間を、また、人生の主要な期間を企業の中で過します。定年になつて企業を離れたあとも、付き合う友人は、学校時代の友人を除けば、殆どが企業のまたは企業に関連して知り合った友人です。つまり、多くの人は、密接に企業と結びついてその人生そのものを生きているのです。最近では、終身雇用制に疑問が持たれ、企業に対するロイヤリティも変わっているようですが、多くの人たちが密接に企業と結びついてその人生を生きている実態は変わっていないように思われます。人権は、人々が幸せに生き生きと希望をもって生きていくことです。従業員が、1日の主要な時間、人生の主要な期間を過している企業が、その人たちの人間としての尊厳を尊重し、人権を守っていくべきことは当然であり、皆が希望と誇りをもってその能力を十分に発揮できれば、その企業も発展していくことは必然です。それは、得意先、協力企業についても基本的に通ずると思います。


企業としての取り組み

 前記の「グローバルコンパクト」では、人権に関する原則として、(1)企業は、その影響の及ぶ範囲内で、国際的に宣言されている人権の擁護を支持し尊重することと、(2)人権侵害に加担しないことを上げています。
 企業が社会的責任を自覚し、それを人権尊重を含めて事業遂行に生かしていくためには、どうすべきでしょうか。

 1 まず、企業のトップが問題の重要性を自覚し、明確な方針を確立することが必要です。社長方針、企業の指針として文書化することも方法ですが、形式に捉われず、実践に結びつく手法が重要です。そのため中核的な推進体制を整えることも必須です。

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 2 CSRの理念、実施状況について従業員に丁寧に知らせ、必要な担当者には啓発教育の機会を与えるべきです。昨年東京商工会議所が行ったCSRについてのアンケート調査で「まだCSRに取り組んでいない中小企業」を対象に「取り組めない理由」を聞いたところ、(1)人手が足りない52・8%、(2)コストの増加が予想される37%、(3)資金不足32・4%、(4)CSRを知らなかった24・5%という結果でした。人権の尊重確保にとって経済的裏付けも勿論必要ですが、それがなければ絶対に不可能なのではありません。それに取り組む意欲、工夫、努力が必要なのだと思われます。

 3 コンプライアンス(法令遵守)ということが言われます。当然のことですが、事故が起こって初めて法令を守っていないことに気づくということも珍しくありません。人権に関連しても種々の法令規定があります。それを守ることによっても、かなり人権は保護されます。しかし、法令に違反しなければ良いという消極的姿勢ではなく、積極的に健全な社会常識を守ることも必要です。企業間の競争でも自由・透明な競争を行い、汚職・腐敗を排除し、政治・行政との関係についても正常な関係を維持すべきです。

 4 出来るかぎり企業の情報を公開し、社会の疑惑を取り除くことも必要です。わが国ではまだSRI(社会的責任投資)は限られているようですが、企業投資の観点からも、このことは必要になります。しかし、反面、個人情報の流失防止のためのセキュリティ体制つくりや、モラルアップも大切です。

 5 従業員に対しては、その採用、事業遂行にあたって、セクハラ・性差別・年齢差別・障害者差別・人種差別・エイズ差別・部落差別などの不当な差別が行われず、採光・換気・騒音への配慮、バリアフリー・ユニバーサルデザインの採用、サービス残業の廃止、労働時間の効率化、個性の尊重など、健康で安全、働きやすい労働環境の整備も必要であり、地域社会に対しては、工場火災・水質汚濁・騒音などの公害を及ぼさない配慮、社会的に非難されない企業体質を乗り越えて、積極的に、社会に貢献する姿勢・具体的施策も求められます。従来、とかく、不祥事が起こってから、それに対する対策として、環境・人権対策を取るという受動的姿勢や、他社がおこなっているからそれに倣うということで、環境や人権にかける経費は、やむをえず行う一種のコストだと考えるむきもありましたが、むしろ、企業のイメージを高め、長期的に業績を高める投資なのだという能動的姿勢が求められます。




21世紀を真の人権の世紀に

 「21世紀は人権の世紀」という期待によって始まった21世紀も、6年たちました。イラクを始めとする戦乱、環境の悪化、自然災害など、人類の前途には、まだまだ色々の困難が立ちはだかっています

 世紀はじめに立てられた「国連ミレニアム開発目標」は、残念ながら、2015年までに達成されそうにありません。しかし、科学機器の進歩、情報の世界化、人権意識の普及によって、僅かながらも、人類社会は前進しているのだと思います。 そして、その最も大きな、最も力強い担い手は、企業です。それゆえ、人権の保障、伸張にとって企業が果たす役割は、今後ますます大きくなっていくことは間違いありません。企業に携わる方々が、是非とも人権尊重の視点を企業経営の基本方針の中に確保し、21世紀を真の意味で人権の世紀として行かれることを祈念する次第です。


二一世紀を真の人権の世紀に



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