「社内うつ」は人災である 〜社内不活性・社外活性社員の原因と対策〜 (その2)


「社内うつ」は社内ストレッサーへの対応が消極的である

※図1〜3はクリックすると拡大画像が表示されます。

 「社内うつ」状態にある社員は総じて社内での不都合な体験に意欲的に対応しようとしない傾向が見られます。仕事の流れが分からなければ上司に相談すればよいと思われる状況でも、あえて相談せずに耐えたり、やがて分かるだろうと時間の経過を待ったりするのです。彼らは他人への思いやりや気遣いに確かに長けていますが、原因はそれだけではなく、相談しても叱責を受けるだけで何の解決にも至らなかったなどの失敗経験を持っていることが多いようです。サラリーマンやOLであればこのような失敗体験は当然なのですが、彼らは気遣いと思いやりに長けているため、失敗をものともせずチャレンジを繰り返すことが出来ないのでしょう。他人への気遣いや思いやりは、自分を大切にしてほしい気持ちの裏返しであることを思えば、失敗の繰り返しを恐れてチャレンジしようとしない彼らの心性は理解できるでしょう。
 図1は、社内ストレッサーへの対応方法(心理学ではストレッサーへの対応をコーピングと呼びます)を2次元4事象に分類した図です。
 また、図2は4種類に分けられたコーピングと「社内うつ」の有力な証拠である憂うつ感を測定した得点との関係を7821人の会社員を対象としたストレス調査の結果に基づいて図示したものです。憂うつ感得点が高いほど「社内うつ」の傾向が強くなるのですから、図2の左端の感情優先消極タイプのコーピングが「社内うつ」が好んで用いるコーピングと言うことになります。感情優先消極タイプ(図1のIV)のコーピングとは、社内ストレッサーを受けたときに、もやもやしたやりきれない感情を消極的な手段で振り払おうとするコーピングです。このようなコーピングよっては問題の本質がなんら解決されないことは言うまでもありません。このようなコーピングを図1のIのような問題優先積極タイプのコーピングへと変えていくのが先ほど触れたストレスカウンセリングなのです。




プロジェクトティーム制の就業形態に「社内うつ」が多い

▲ 講演風景
 社員を多面的に活用して生産性を上げようとする就業方法にプロジェクトティーム型方式があることはご存知の通りです。昨今のダウンサイジングでこの方式をとる企業は増加の一途でしょう。1人の社員が3つ4つのプロジェクトに参加する姿は活力にあふれていることは確かですが、反面社員にかかる負担も並大抵のものではありません。その原因は専門から外れた役割をプロジェクトで担わされるからですが、これ以外にも、ティーム内の命令指示系統が不明確になりやすいことにも原因の一端はあるようです。
 他方、日本には営業本部、海外本部、管理本部のように事業本部制を敷く企業もたくさんあります。この種の企業の従業員は所属する本部内の異動はしばしばあっても、本部をまたぐ異動はそれほどないことが普通です。そのため、所属する本部の業務内容に精通していますし、命令系統がしっかりと確立しているため仕事上の立場や役割が理解しやすい状況におかれています。
 図3は、プロジェクトティーム制企業、事業本部制企業、および電機メーカー工場のそれぞれの従業員の疲労感と憂うつ感をストレス調査によって調べた結果です。通常「社内うつ」は疲労感→苛々感→緊張感→身体不調感→憂うつ感の順に気分が悪化しますから、図に示す疲労感は「社内うつ」の入り口であり、憂うつ感は「社内うつ」そのものと言うことができます。図からは、プロジェクト制の企業が疲労感、憂うつ感の両方が最も高いことが分かります。私と私の研究室の臨床心理士たちがこの調査後に3つの企業の従業員に面接した結果からも図と同様な情報を得ることができました。

 

「社内うつ」は若年社員と中途採用社員に多く、原因は裁量権不足と役割不明である

 「社内うつ」の原因が裁量権不足と役割不明瞭にあることは先に紹介しました。裁量権不足は、部下にできる限りの権限をあたえ仕事を任せる姿勢を上司が示すことでかなり改善されるでしょうし、役割不明は、担当する業務の目的や期待される業務の成果を上司が説明すればある程度までなくなるでしょう。この点からすれば「社内うつ」は上司の部下管理のしようによって、改善できる糸口があることになります。長いあいだ企業従業員のカウンセリングをしていますと、「社内うつ」を作ることが得意な管理職者がいることが分かります。彼は異動した先々で次々と「社内うつ」を製造しますが、反対に部下に仕事を任せて“責任は僕が取るから存分にやってごらん”と言うタイプの上司の下には「社内うつ」がほとんど生まれません。
 派遣社員や中途採用社員に「社内うつ」が多いことも、当分の間は彼らに社内秘や社外秘を開示したくない、あるいは権限を与えたくない、とする上司の部下管理態度のためかもしれません。