人間の価値と生き「社内うつ」は人災である 〜社内不活性・社外活性社員の原因と対策〜 (その1)

早稲田大学文学部教授 小杉 正太郎(こすぎ しょうたろう)
●プロフィール

早稲田大学文学部教授(心理学専攻)、博士(文学) 1939年生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。
1966年から携わった海底居住の心理学的研究を契機として、環境・ストレス・行動をキーワードとする心理学的研究に従事。いくつもの企業にカウンセリングルームを開設し、従業員を対象とした心理ストレス調査と職場適応援助を実施している。心理ストレス研究の第一人者として著作活動も活発におこなっており、主な著書に『社内うつ』(講談社)、『仕事中だけうつになる人たち』(日本経済新聞社)『ストレス心理学』(川島書店)などがある。

◎著書
「社内うつ」講談社
「仕事中だけうつになる人たち」日本経済新聞社
「ストレス心理学」川島書店 他

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職場には「ストレスカウンセリング」が必要

 自動車メーカーの研究所にカウンセリングルームを開設し従業員の心理相談とストレス調査を始めて、25年が経過しました。カウンセリングルーム開設の契機は、同業他社への競争力を高めるために研究開発に携わる多数の専門職を短期間に多数採用したことにあります。中途採用者が増えれば仕事の進め方や企業風土になじめないことなどに原因するさまざまな問題が起こるのは当然でしょう。私の専門は職業性ストレス研究ですから、自動車メーカーからの依頼をよろこんで受けたかったのですが、受けるについて2、3の注文を出しました。
 それは以下のような注文です。
(1)精神障害(特に統合失調症〈分裂病〉、内因性のうつ病など)の発見と医療機関への紹介を私の主要な業務としないでほしい。私の役割は従業員の精神的健康を高めることにあるのだ。
(2)そのためには精神的健康を阻害する要因を洗い出すためのストレス調査が不可欠である。調査の実施に協力してほしい。
(3)ストレス調査の実施には全社的協力が不可欠だから、精神的健康・メンタルヘルス、ストレスに関する講演と研修をできるだけ多くさせてほしい。
 この会社は他にも研究所を持っており、そこにも同様なカウンセリングルームを開設することになりましたから、私のスタンスで従業員を援助する方式が認められたのでしょう。その後、いくつもの企業に同様な目的を持ったカウンセリングルームを作り、私の指導する大学院生共々、従業員を対象とした心理的援助とストレス調査を行って現在に至っています。  このような経緯からお分かりと思いますが、私のカウンセリング技法は病人を治そうとするものではなく、会社内で元気がなく仕事に集中できずにいる状態、つまり軽い職場不適応者を元気づけるカウンセリングなのです。職場不適応の原因は職場で体験するストレスの元・ストレッサーにありますから、ストレッサーへの対応手段を身に着けてもらうカウンセリングが私のカウンセリング技法の特徴なのです。私はこのようなカウンセリングをストレスカウンセリングと呼んでいます




「社内うつ」は7%の従業員

 このようなスタンスでカウンセリングを始めた当初からうすうす気づいていたことがあります。それは、特定な仕事を担当したり特定の人物の前に出るといつになく元気がなく、ややもすると単純なミスを犯してしまう社員が散見されることです。彼らのこのような特徴は社内限定ですから、家族はもちろんのこと違う部署の同僚もほとんど気づきません。つまり彼らは社内不活性・社外活性の状態にあるのです。元気のなさや集中力の低下はうつ状態(うつ病ではありません。うつ状態はもちろんうつ病の主要な症状ですが、うつ病以外にも頻繁に認められるのです)の特徴ですから、私は社内不活性・社外活性を「社内うつ」と呼ぶことにしました。「社内うつ」は私のオリジナルの造語なのです。
▲ 講演風景
 「社内うつ」社員がどのくらいいるかを私が主宰する企業のカウンセリングルームから三つを選び、ストレス調査結果とカウンセリング記録をカウンセラー達との事例検討会で調べました。「社内うつ」は仕事上のストレッサーに原因するので、当然ながら会社ごとにその発生率は異なります。そこで、技術系の研究所、ゼネコン、軽電機メーカーの異なる業種を対象としたのは当然のことです。その結果、技術系研究所が10%、ゼネコン7%、軽電機メーカー3%となったのです。かなり乱暴な結論ですが3分の20≒7、つまりおおよそ7%の社員が「社内うつ」状態にあることが推測されたのです。技術研究所は約9000名、ゼネコンが約6500名、軽電機メーカーでは約1800名を対象としたストレス調査結果ですし、カウンセリング記録数は調査対象者の10分の1ですから、7%という数値は確度の高いものといえるでしょう。

 

「社内うつ」は若年社員と中途採用社員に多く、原因は裁量権不足と役割不明である

 企業ごとに多少とも違いはありますが「社内うつ」のほとんどは20歳代から30歳代前半の若手の社員です。年齢が増えるにつれ減少する傾向にあり、40歳代で時折見つかった場合には、その大部分が中途採用社員か派遣社員なのです。中途採用と派遣は今後ますます増えるでしょうから社内限定の不活性社員は人事サイドの重要課題となるかもしれません。
 「社内うつ」社員がどのような社内ストレッサーへの対応に窮しているかをストレス調査とカウンセリング記録とから検討すると、次の事柄が分かってきます。
 まず、彼らの多くは、″仕事を任されていない、何らの決定権も与えられていない、実力不足で業務をこなすことができない、指示に従って仕事をするだけだ″などの訴えを多くします。業務処理能力が足りないから仕方ないと思いつつも、このような受身の毎日は決してハピーではありません。もしも彼らが収入のためにだけ働いているのであれば、このような不満を口にはしないでしょう。仕事に生きがいを求めるとまでは言えないまでも、積極的に社業に励みたい一途な気持ちがこのような訴えの裏面には隠されているのです。
 彼らは、″仕事の流れが読み取れない、何人かの上司から異なる指示を受けて立場の取りように困る、仕事のゴールがどこにあるのか分からない″とも言います。現在担当する業務がどのような成果につながるのか、成果につなげるにはどうすればよいのかを暗中模索しながら働く毎日、あるいは、大きな流れのごく小さな一こまに過ぎないと思いながらの毎日は苦しさの連続に相違ありません。しかし、これもまた前向きに働きたいがゆえに体験する苦しさなのです。 このように、「社内うつ」に入り込む社員の多くは、まじめに働こうとするけなげな社員なのです。

 

次回に続く

「社内うつ」は人災である
〜社内不活性・社外活性社員の原因と対策〜 (その2)
  • 「社内うつ」は社内ストレッサーへの対応が消極的である

  • プロジェクトティーム制の就業形態に「社内うつ」が多い

  • 「社内うつ」は人災である


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