人権とジェンダー 女性の視点・男性の視点(その2)大阪大学大学院 伊藤 公雄

女性差別とジェンダー

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▲講演中の筆者。各地で開かれている男女共同参画セミナーでは、講演の後、参加・発見型のワークショップもしばしば行われる。

 「文化的・社会的に作られた性別」という意味でのジェンダーという言葉が広がったのは、1970年前後のことです。その背景には、女性解放運動や女性学の発展がありました。女性であるということで、個々人の能力や個性をひとくくりにされ、差別されたり社会的排除を受けてきた女性たちにとって、このジェンダーという考え方は、きわめて重要な意味をもっていました。というのも、性差別の多くは、このジェンダーに由来すると考えられるからです。

 どんなに優れた発想をもっていても「女性だから」と発言を封じられたり、「どうせ女だから家庭に入るのが一番」などという決めつけが、これまでの男性主導の社会ではしばしば見られました。でも、ここにジェンダーという視点を入れると、ちょっと考え方を変えざるをえません。
ジェンダーの視点は、「女とはこういうもの」とか「男だからこうだろう」という性別による決めつけが社会や文化の産物だと考えます。つまり、その多くが、習慣や伝統といわれるもののなかで、人間の意識が作り出したものだということです。「女」としてひとくくりにされ差別されたり排除されてきた女性たちは、自分たちが個性や多様性をもった一人の人格として社会参加・参画するには、この固定的な決めつけを乗り越える必要がありました。この決めつけの基礎にあるジェンダーの構図が、人間によって作られたものであるなら(つまり「自然」によって規定された不変的なものでないなら)、人間の意志によってこの構図は作り替えることができるということでもあります。

 こうして、男女平等を目指す女性たちにとって、このジェンダーという視点はきわめて有効なものになったのです。


生物学的性差と男女平等

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▲子育ての男女共同参画もジェンダーの平等にとって重要な課題の一つだ

 こう言うと「やはり女性と男性は身体的に違う(だから、性別による役割があっても仕方ない)」という人もいると思います。確かに、ジェンダーとセックスをまったく別のものとして扱うのは困難な場面があるのも事実です。生物である人間には、やはりさまざまな部分で性差が存在するからです。たとえば、妊娠・出産・授乳などは男性には(生殖技術の発達によって将来は変わるかもしれませんが、少なくとも今のところ)できません。妊娠・出産・授乳などの期間、女性は社会的活動ということでは、さまざまな制約を受けることになります。それが、結果として社会的な男女の役割分担につながったという面があるのは事実です。

 しかし、たとえば授乳などは、ミルクの登場や冷凍母乳(ぼくも二人の子どもに、妻が絞って冷凍しておいた母乳で「授乳」しました)などにより、男性でもかなりの部分担えるようになりました。また、お風呂に入れたり、食事をさせたりは、当然、男性にも(生物学的に見ても)可能です。こう考えると「育児は女性の仕事」という発想が、生物学的なものに規定されているというよりも、ジェンダーによって縛られているところがかなりあるということが見えてきます。

 生物学的な男女の違いということを考えるとき、男女平等のためには、多くの女性がもつ妊娠・出産という生物学的機能をどう考えるかということも重要な課題になります。まず、女性がそうした機能をもつことに十分配慮するとういことが必要です。ところが、「何でも同じ」にすることが「平等」だと勘違いしている人は、このことが理解できないようです。社会参加という点で、妊娠・出産の機能をもつことは、ときにはハンディキャップになります(重いおなかをかかえて働くことや、出産直後の体力の落ちた状態で働くことを想像してみてください)。だから、このハンディキャップに十分配慮しなければ、結果として格差や差別が生じてしまうのです。

 と同時に、もうひとつ重要なことがあります。女性がそうした生物学的機能をもっていることを口実にした差別や排除をしない、という原則も必要なのです。でも、実際は、「女性は妊娠・出産するから労働力としては使い勝手が悪い」とか、「女だからといって、生理休暇を権利として主張するのは問題だ」とかいう声はまだよく聞くことがあります。これは女性の生物学的機能を口実にした性差別なのです。

 実質的な男女平等を考えるなら、「女性の生物学的機能への十分な配慮と、それを口実にした差別の撤廃」が前提にならなければならないのです。国連の女性差別撤廃条約をよく読むと、この原則が貫かれていることが理解できるはずです。

 

次回に続く


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