社会的責任投資にみられる企業の評価基準 -環境・人権・社会的責任の取り組み-

大和総研主任研究員 河口 真理子
●プロフィール
1986年 一橋大学大学院修士課程終了
(公共経済学、環境経済学専攻)
同年大和証券入社
外国株式部、投資情報部を経て、
1994年 大和総研に転籍、企業調査部を経て
現在経営コンサルティング部、主任研究員。環境省環境パフォーマンス検討委員会委員(2000年)、環境省『環の暮らし会議』エコライフ検討会メンバー(2002年)
著書: 「環境情報ディスクロージャーと企業戦略」(共著)東洋経済新報社「環境会計の理論と実績」(共著)ぎょうせい
河口 真理子




相次ぐ企業不祥事
 2年前の食中毒事件以降いくつもの企業不祥事発覚が相次いだことで、今や日本の社会は極めて企業の社会的責任に対して敏感である。この8月にも新たに、食品会社の牛肉偽装事件が発覚したが、主要スーパーは発覚後即座に同社商品を店頭から撤去し、1週間で売上は6割弱に落ち込み、株価は半減した。2−3年前では考えられないほどの厳しい社会の反応である。

 こうした企業の社会的責任に対する関心の高さは日本国内にはとどまらない。米国では、エンロンやワールドコムによる企業の不正経理事件が企業や株式市場に対する信頼感を失墜させ、現在国をあげて信頼回復のための改革に取り組み始めた。



企業の社会的責任と国際社会
 一方国際社会を見ると昨年9月の米国同時多発テロ事件以降、「グローバリズムの負の遺産、南北間における貧富の差の拡大が世界情勢の不安定化に拍車をかけている」と論じられるようになった。今年夏のヨハネスブルグサミット(環境開発サミット)では環境に加えて貧困撲滅が主要テーマとなった。環境問題や貧困問題では企業の果たす役割が極めて大きく、人権問題や環境問題への配慮は、企業の社会的責任の一環、とみなすことが国際社会の潮流となってきた。国連は環境、人権、労働についての企業の行動原則である「グローバルコンパクト」を2000年7月に策定し、すでに世界で500以上の企業がこれに署名している。


 また環境マネジメント規格ISO・14001などのマネジメント規格を策定した国際標準化機構(ISO)でも企業の社会的責任に関する規格化の検討を今年開始した。



企業の社会的責任の影響増大
 一方、海外でも社会的責任を果たしていない企業には消費者から大きな社会的ペナルテイがかせられる。例えば、米国のスポーツ用品メーカーのナイキでは、ベトナムの下請け工場で児童労働者を使っていることが発覚、全米での不買運動に直面、また石油会社のロイヤルダッチシェルは、老朽化した海上油田基地を北海に投棄する計画が、「北海沿岸の生態系に深刻な影響を及ぼす」として欧州各地で不買運動の攻撃にさらされ、両社とも営業上も深刻なダメージをうけた。打開策として専門のNGOなど幅広いステークホールダー(利害関係者)との協力によって解決策を模索すると同時に経営に社会的責任を組み込む社内体制を整えた。世界の経営者は、企業の社会的責任が企業のブランド価値に直結することを認識している。


企業の社会的責任と社会的責任投資
 こうした社会の情勢の変化を反映して、資本市場では企業の社会的責任を投資にくみこむ、社会的責任投資(Socially Responsible Investment, SRI)への関心が高まっている。SRIとは、従来の財務面での企業評価に加えて倫理面、社会面、環境面での評価(SRIスクリーン)を加味して銘柄を選定する投資手法(SRIスクリーン運用)、およびこうして投資した企業に対して、倫理的、社会的、環境的観点から株主提案を提出したり経営と対話を試みること(株主行動)をさす。SRI市場は米国では1995年の6950億ドルから2001年には2兆3400億ドルと3倍強に拡大し、総運用資産の12%を占めるにいたった。欧州でもSRI型の投資信託の市場規模は、98年から2001年の間に4割増加した。


SRIの歴史
 SRIは1920年代に米国で始まったとされる。キリスト教教会で資産を運用する際に教義上問題あるタバコやアルコール、武器などの事業を投資対象からはずすことがその発端である。その後1960年代以降は、南アで事業活動をしている企業を排除するなど、反アパルトヘイトや公民権運動などの社会運動の一環として注目された。70年代にはSRI型の投信が発売されている。SRIの考え方は80年代にはいり欧州にも広がった。なお、基本的にこうしたSRIは「特定の業種や地域で操業している企業を投資対象からはずす」、というネガテイブスクリーンの考え方に基づいている。

 これが変化したのが90年代以降、環境で企業を評価するようになってからである。環境では特定の業種―たとえば原発関連で電力会社―を排除するというより、各業態でそれぞれ先進的な環境対策をしている企業を組み込む、というポジテイブスクリーンの考え方が適用されはじめた。実はこれは生産性の高い優良企業選別のひとつの手段であった。従来環境対応に熱心な企業は余分なコストをかけている=生産性が低い、と認識されがちであったが、省エネや省資源という環境対応は実はコスト削減に直結する。このため、社会性や倫理に関心の薄い一般の投資家にも受け入れられやすくなったのである。さらに、昨今の相次ぐ企業の不祥事によって、「透明性の低い企業はリスクが高い」、と認識されはじめた。環境や情報開示などの社会的対応は、倫理的に望ましいというだけでなく、企業のリスクやビジネスチャンスを評価するうえで必要不可欠な要素とみなされるようになったのである。