成田真由美

シドニーパラリンピックの思い出

 シドニーに行ってからは、ただただ楽しくて「もう、帰りたくない」と思ったほどです。苦しかったことは全くありませんでした。

 一番印象に残っているのは、最終日の五50M自由形のことです。私自身で大きな目標がありました。「タイム40秒を切ること」。その時はもう何も不安はなく勝負に集中して無心で泳ぎました。電光掲示板に「39秒23」の文字。思わずガッツポーズをしていると、後ろから「MAYUMI」と声を掛けられる。隣のコースで泳いでいたカイでした。彼女の名はKay Espenhayn。ドイツの選手で初めて出会ったのは1996年のアトランタ大会。記録の上でもライバルとして常に意識していた選手です。振り向くと彼女から“Congratulation,Great time!”のことば。ライバルである彼女からの心からの祝福を受け、涙があふれ出ました。コース越しに彼女と抱き合っていた。喜びのあまり言葉が出ず、“Thank you,Thank you”とただ言っていた。

 表彰台に上がったとき“これで終わるんだー4年間いろいろあったなー”と思って色々な事が頭を巡りました。最終的には「両親にありがとう」という気持が自分の中で大きく膨らんでいました。


(写真:共同通信社提供)

共生社会に向けて、健常者へのメッセージ     

 障害を持っている人全体の意見は言えませんので、車椅子で生活している自分の身の回りのことをお話したいと思います。私も日常生活していくにあたって、不便だと思うことはたくさんあります。一般には街や駅にスロープなど増えて、便利になったと思われていますが、実際にはまだ歩道に頻繁に段差があって移動しづらいと思うことがよくあります。それなら車で移動して買い物や食事をしようとしても入り口に二〜三段の階段があってお店に入れません。一階が駐車場で二階が店舗のため入れない事もあります。また障害者専用駐車場があっても、そこに赤いパイロンが立ててあって車を止める事が出来なかったりします。

 先日東京で大雪が降った日、私は講演のため大分に向かわなければなりませんでした。羽田に着いた私は飛行機の欠航を知らされ、陸路で大分まで向かう事になってしまいました。モノレールで東京駅に向かったのですが、そこで驚いたのはあの羽田空港にリンクしている浜松町駅はJRとモノレールの駅が車椅子向けにつながってなく、雪の中を横断歩道を渡ってJRの駅まで行くしかありませんでした。JRの駅に着いても今度はエレベーターが無く駅員さんが大きな器具を持ってきてくれて階段の横に付いているリフトをセットしてくれてやっとホームに上がれました。そんなわけで羽田から東京駅まで一時間以上かかりました。それでも目的地に行きたいと思えば行けます。でもそこでちょっとだけ皆さんも自分の身に置き換えて考えてみて下さい。私たちも自分で出来る事は自分でやりたいと思っています。どうか社会も障害者のガンバリに甘えっぱなしではなく、改良の方向を考えていってくれたらと思います。


考え方や接し方     

 もし自分がその立場だったらどう思うかを考えて接して欲しいです。よく街で車椅子をいきなり後ろから押してくれる人がいます。気持ちはうれしいのですが、そのときは、とてもびっくりしてしまいます。そこまでの勇気をお持ちなら“何か手伝いましょうか?”の一言をかけてみて下さい。その人にとって何が必要かを聞いてから手助けをして欲しいです。また、自分で出来る時には私は普通に“あ!有り難うございます。でも今は大丈夫です。”と答えます。他の障害を持っている方達もそうでしょう。そんな時はどうか皆さんは気を悪くしないで下さい。

 みなさんもいずれ高齢になれば何らかの障害を持つようになるので、その人の身になって日頃から考える習慣を持って欲しいと思います。生活の中で簡単に体験できる事はたくさんあります。例えば目をつぶって食事をしてみて下さい、ボリュームをゼロにしてテレビを見てみて下さい(皆さんは何分耐えられますか)。お近くの社会福祉協議会や役所に行って車椅子の体験をしてみて下さい。そんなことでもいろいろな事を感じてもらえると思います。


今後の夢     

 普段から心がけていることは「ダメだ出来ないと思うのも自分、やるぞと思うのも自分、全てが自分の気の持ちようだ」ということです。与えられた障害を受けとめ一度しかない人生だから楽しもうと思っています。

 そして今思ってることは、女性としての私と、競技人としての私と二つとも両立したいのです。まず結婚をして子どもが欲しい。実は女の子ならすでに名前も考えていたりします。そしてシドニーへ新婚旅行に行きたいな・・・なんて思っています。そして4年後には主人と子どもと一緒にアテネパラリンピックに行ければいいなと。もちろんそこで更なる記録を出し、金メダルをとりたいですね。

 
写真
(写真:共同通信社提供)