福島大学 教授
和田 若人

「IT時代におけることば・表現と人権感覚」は、後で見るように「21世紀における〜」と置き換えたにしてもほぼ同じことになると思われる。しかし、IT革命は18世紀の産業革命に匹敵するという意見もあり、やはりこの辺から話を進めていくことにしたいのだが、その前に話の中心「ことば・表現と人権感覚」を考えるための練習問題を出しておきたい。この問題がIT革命あるいは21世紀の人権問題とどのような関連があるかを、まず検討していただければと思う。

問題一(人権感覚)
インターネットの急速な普及と同時に、これを利用した事件も多く発生してきている。詐欺やネズミ講、プライバシーの侵害のような以前からみられたものも多いのであるが、何かインターネット特有の性格を持つものもある。
ケースAはある新聞に載った記事の紹介であるが、これまでには見られなかった不可思議なケースである。しかしこれから頻繁に起こりそうでもある。どこにどのような問題が潜んでいるのだろうか。そこに人権問題があるのだろうか。人権、差別性の有無を含め、多様な議論を交わしてみてください。

 ケースA

理想の夫婦といわれていたのだが、ある日妻のもとに夫からのメールが届いた。
「好きな人がいる。別れて欲しい」
相手を教えて欲しいというと、夫は
「メールアドレスを教える。直接話したらよい」
という返事。

二人の問題なのにどうして、と思いあぐねたが、友人のアドバイスもありメールで尋ねたところ、あなたが悪いから私のところへきたのだという勝ち誇ったメールが届く。

メールという手段がなかったら言い出さなかったのだろうか。また女性のあの強いことばもでなかったのだろうか。


問題二(差別性の判断)
記事Aに使われている、‘酋長’は、差別語(差別的ひびきを持つ)という見解がある。(もちろんそうではないという意見もある。)差別性を持つとしても、外国の南海の‘おさ’を指すことばであるから問題はないという見解もあろう。さらにここで述べられていることは反差別の立場からであり、表現の差別性の有無は一つのことばの使用からではなく、文全体の趣旨から判断されるべきでありこの意味から問題ない、という考えも出そうだ。あなたはどう考えますか。

 記事A 2000年8月5日 毎日新聞


問題三(人権感覚、差別性の判断)
C社の東南アジア工場の従業員は、日本人2割、現地従業員8割である。この度、現地の人権団体から次の申し入れがあった。「現地労働者の賃金は低く、生活水準は日本人労働者に比べ著しく劣っている。ちなみに日本人労働者はTV、冷蔵庫、エアコン、自動車等を持っているのに対し、現地労働者は持っていない。同じ仕事をし、生産性もそれほど違わない。生活水準の差ほどないことは確かである。この状況は人権侵害に当たると考える。日本人労働者並みの生活水準が維持できる賃金を保証されたい。」あなたはどう考えますか。


IT革命と不安

 昨今、何もかもITばやりである。このITによって米国経済の好況が支えられ、欧州も力強い。先の沖縄サミットにおいてITが真正面から取り上げられ、さらなるグローバル化が一段と促進されることは疑いのないことだ。

 しかし、これを前にして、なんとなく不安感を持つのは筆者一人だけであろうか。ITを否定するのではない。確かにITは21世紀の社会、経済に対し革命的変化をもたらすものであろう。またヒトゲノム解明と同じようにコンピュータをはじめ先端科学技術の高度活用の必然的結果でもある。後戻りできるものではない。にもかかわらず懐く不安感は、一つにはIT革命といわれるものが経済的側面についてのみ語られているからではないだろうか。さらにこれにつながるのであるが、IT革命のもたらす影の部分が見えていないことからくるのではないだろうか。

「人々が潜在能力を発揮し希望を実現する可能性を高める社会に向け、民主主義の強化、統治の透明性、説明責任の向上などのためにITの潜在力を十分に実現するよう努めなければならない」

「競争と革新を促す政策・規制の環境強化、経済面・金融面での安定確保など政府はリーダーシップを発揮する」

 上記は、沖縄サミットにおいて採択された「IT憲章」の一部である。(7月23日毎日新聞)

 すでに国際的に合意された内容が多いとはいえ、IT革命が経済的側面へのインパクトのみならず政治、社会生活一般、文化等あらゆる領域に変革をもたらすものであることが認識されている。特にわが国においては、他の先進諸国にくらべIT化が遅れていたことを考えるとこの採択は一定の意義があり、今後あらゆる分野でその促進が図られるに違いない。

 しかしながらよく見ると、経済的側面が中心であることがわかるのである。(表 1)



 また影の部分についても、すでにいわれている「犯罪のない安全なサイバー空間を強化するための国際協調」と国内外の情報格差すなわち「デジタルデバイド」の解消が謳われているにすぎない。

 ITが必然であると考えるとき、ITは何をもたらすのであろうか。一人ひとりの毎日がより楽しく自由に伸び伸びとした生活であるよう貢献してほしいものだ。これを探る手立てとして一つの実験例をご紹介しよう。