![]() |
|||
『公正な採用選考を考える』(その1)
東京人権啓発企業連絡会では、会員企業の採用責任者等を対象とした「採用責任者人権講座」を、1999年10月26日(火)野村證券高輪研修センターにおいて開催しました。講師には、東京都同和教育研究協議会事務局長 松浦利貞様から「公正な採用選考を考える」について、そして、部落解放同盟中央執行委員 片岡明幸様から「身元調査事件と企業の社会的責任」について、それぞれ貴重なご講話をいただきました。 その講演内容を紹介しますので、皆さんも「公正な採用選考について」改めて考えてみましょう! こんにちは。東京都同和教育研究協議会の事務局長をしております松浦と申します。東京人権啓発企業連絡会の皆様にはいろいろといつもお世話になっております。この場を借りまして御礼申し上げます。 就職差別の現状 それから、最近気になっているんですけれども、高校生が会社見学というような形で企業訪問しますときに、アンケートということでいろんなことを書かせる企業があります。そのアンケートは簡単な名前と住所を書くぐらいのものもありますけれども、いろいろと会社についての質問と、それから家族の構成とか、いろいろと書かせている会社もあるみたいなんですね。そうすると、アンケートと称してこういう細かいことを書かせている企業があるのかもしれないと考えます。そんなふうなことで、まだまだ統一応募用紙ができたということについての理解が徹底されていないということで、特に社用紙が使われているということについて大変ショックを受けました。 併せて、面接等でもいろいろ違反がありますけれども、この労働経済局の調査によりますと、親の職業を聞いている企業が9.3パーセントある。それから本籍地については1.2パーセント。信仰する宗教については0.4パーセントという形のものが出ています。これを私たち高校の教職員で組織をしています高等学校の教職員組合が1982年から続けている生徒のアンケート調査と比較してみると、大体現在の状況でいうと親の職業は15パーセント前後の企業が聞いている。それから本籍地を聞いているのが4パーセント前後、信仰する宗教については大体1パーセントぐらい。それから尊敬する人物が労働経済局の質問項目の中にはありませんでしたけれども、尊敬する人物についても2パーセントぐらいの企業が聞いているということがわかります。
そして私たちの調査は組合を通しての調査ですけれども、そのことについて東京部落解放研究所で『すいへい・東京』という紀要を出しているんですが、その第10号の中で私がちょっと分析をしています。私たちの調査で、最近の東京近辺といいますか関東全体は同じなんですけれども、その状況をまとめてみますと、親の職業を聞いている企業が従来30パーセントを超えていたんですが、これが1989年に30パーセントを割って、20パーセント台に下がった。これが1996年に20パーセントを割って10パーセント台に下がったということで、一応少しずつ減っているということがいえるんです。 ただ、1996年に実は統一応募用紙が大幅に改定されまして、従来、都道府県名だけ書かせる本籍欄があったんですけれども、これが消えた。また、家族構成欄がまったく消えちゃったということで大きな改定があったわけですね。そういうことで、統一応募用紙についての理解がそれぞれの企業で進んだのではないかというふうには思ったんですけれども、一方で1996年から実はアンケート形式のものが増えたんです。それまではそんなにアンケートを取らなかったのに、96年から急にアンケートを取るようになった。ですから、統一応募用紙が改定されて、たぶん会社のほうでは必要なことが聞けなくなったので、代わりにアンケートで聞くようになったのではないかと思われるような形で、アンケートが増えてしまったという問題点がございます。 ともかく、一応東京でも統一応募用紙違反の質問が減ってはきた。従来、たとえば親の職業が30パーセントだったのが20パーセント台に下がり、それから10パーセント台に下がっているわけです。でも、東京で取り組みをはじめた1982年の頃、ちょうど同じ頃に取り組みを始めました徳島県では、(東京は組合が抽出調査をしたんですけれども)全県的にしっかい悉皆(しっかい)調査をやっております。そういうことで統一応募用紙違反が全部わかりまして、そしていろんな指導・取り組みが行われて、急速に違反が減ってきました。 たとえば、徳島では親の職業を聞かれた生徒は、1995年の調査では0.7パーセントです。ですから、東京ですと14.5パーセントなのに、徳島では0.7パーセントということで、桁違いということですけれども、まだ依然として東京、あるいは関東では、統一応募用紙違反の質問がある。西日本のほうでもいろいろと問題にはなっていますけれども、東京や関東はそれに比べると桁違いの実態だということがいえます。 それから、健康診断が非常に問題があるということで取り組まれているわけですが、健康診断については、私たちの調査では1996年では12.5パーセントが健康診断をされていたんですけれども、東京都の調査では45パーセントになっています。他の違反については、私たちの調査のほうが多くて東京都の調査のほうが少ないんですけれども、健康診断については、私たちの調べたのが少なくて東京都の調査のほうが多くなっています。 これは一体どういうことなんだろうかということで考えてみますと、高校生を採らない、たぶん大きな企業の方たちが健康診断をかなり徹底してやられているのではないか、というふうに私たちは分析をしました。ですから、私たちは高校生を通しての調査なので、それでは12.5パーセントですけれども、東京都の調査には高校生を採らない企業がたくさんありますので、そこでは45パーセントの企業が健康診断をされているということです。そのことについての問題点は、またあとでお話をしたいと思います。 それから、もう一つ、東京および関東では、西日本にはない高校生の早期選考、青田買いがある。たぶんご承知だと思いますけれども、これは決して企業だけの責任じゃなくて、学校にも大きな問題がある。企業がちゃんと正規の選考をやりたいのに、学校のほうから「早く結果を知らせてくれ」ということで催促がありまして、しょうがなく教えちゃったというのもありますが、学校現場の中には「いや、こういう状況ではしょうがないんだ」という考え方もありますけれども、今までの流れを考えてみますと、学校現場にとっては早期選考は本当によくない。そして今、特に景気が悪いということで、早期選考がどんどん早くなってきているんじゃないだろうかという感じもありまして、これは何とかしたいというふうに思っております。 学校現場にいますと、やはりいろんな問題を感じますが、今年、これはちょっと取り組まなくちゃいけないのかなというふうに思っていることがあります。「こういうことがあったよ」という話を聞いているんですけれども、採用内定をされます。そうしますと今の職安の指導では承諾書だけでいいと。従来は誓約書を出すわけですが、今は承諾書だけでいいというふうになっております。その承諾書を見ましたら、確かに承諾書と書いてあるんですが、その中身は、いろいろと違反すると内定を取り消されてもやむを得ませんという誓約書になっているんですね。最初のタイトルだけは承諾書になっているんですけれども、中身は昔の誓約書と同じだということです。ですから、これはまったく趣旨が理解されていないなというようなことがあります。 それから、今の求人票が原則として男女不問ということになっており、男女不問の求人票をいただいているんですが、実際には男子は困る、女子は困るというのがあります。まあ、どっちかというと女子が困るというほうが多いわけです。ですから、まだ企業の中の機構の整備というものが十分されていない。表面だけは変わっているように見えますけれども中身がまだ変わっていない、受け入れ態勢ができていないという問題がありますので、これを何とかしていただきたいなというふうに思っております。 こんなふうなことで、まだ依然として統一応募用紙の趣旨が徹底されていないわけですが、親の職業を聞いた企業をいろいろと聞いてみますと、「うっかり聞いちゃった」とか、「話の流れで何となく聞いてしまった」とか、そういう形の場合が多いんです。でも、統一応募用紙が制定されて1年、2年、3年ぐらいでしたら、まあうっかり聞いたということでも、そんなにおかしくはないと思いますけれども、もう26年も経って、まだうっかりしたということではやはり困るんじゃないか。
私はもう高校の教員を30年やっておりまして、私が最初に就職しました学校は埼玉県の商業高校でした。当時、90パーセントが就職希望でした。年輩の方はご存じだと思いますけれども、そのころはまだ統一応募用紙が制定される以前でしたから、いわゆる社用紙がございます。親の職業、学歴、収入、それから財産、動産がいくら、不動産がいくら、それから家は自宅なのか、借家なのか。土地も自分の土地なのか、借地なのか。どのぐらいの面積があって、畳数はどれぐらいなのか。部屋数はどれだけなのかというようなことを詳しく聞く。それから、さらには本籍地、尊敬する人物、信仰する宗教、支持する政党など、あるいは労働組合についてどう思うかとか、いろんなことを事細かく聞いた社用紙がございました。そして戸籍謄本や戸籍抄本が取られて、身元調査が行われている。これがごくごく普通の実態でした。 私たちはそれについて、これはおかしいなと思いながら、でも世の中は厳しいからそういうものなんだということで、たとえば会社の面接に行けば必ず本籍地が聞かれる。「本籍地というのは現住所と違うんだから、ちゃんと親に聞いて現住所を答えちゃ駄目だよ。本籍地はちゃんと本籍地を答えなさい」ということで指導してきたわけです。 でも、その本籍地が何のために聞いているのかということは全然わからなかったですね。今はいろいろと勉強しまして、「本籍地というのは被差別部落かどうかということを確かめるためにしか実際には使い物にならない。目的は部落かどうかを確かめるためのものだ」ということがわかりますけれども、その当時、そのことは全然わからなかった。何のために聞くのかわからないけれど、ただ必ず聞くということだけは知っていましたから、「ちゃんと準備をしなさい」という指導はしていたということです。 当時の常識でいいますと、一人親といいますか、片親といいますか、母子家庭、父子家庭の子、それから経済的に厳しい家庭の子は金融関係はほとんど就職できない。まず無理だということも常識でした。そういう家庭的・経済的に厳しい子や、あるいは一人親の家庭の子については、「どうせ金融機関は無理だからメーカーのほうはまだその点については理解があるので、メーカーのほうを希望したらどうか」という指導をして、それがおかしい、不当だというふうにはなかなか思わなかったんですね。しょうがないという形でもって指導していたわけで、今考えますとやはりそれが当時の私たちの実態だったんだというように思っています。当時はそういうことで、一人親の家庭、特に母子家庭の子どもというのは就職が難しくて、これは東京でもそうですし、他の県でもそうですけれども、知事が、あるいは市長が身元引受人になって就職させるということまでしなければ、母子家庭の子どもはなかなか就職できないという実態だったわけです。 |
|||
| 目次へ |