●同和教育・社会啓発の経験と効果

 

 ところで、学校で同和教育を「何度も受けた」と答えた者162人(回答者全体の5.4%)、「少しは受けた」が729人(24.2%)、残りは「受けたことはない」もしくは無回答であった。関東で同和教育の取り組みがはじまったのはそれほど古いことではないので、同和教育の受講経験者は20代、30代に多い。
 一方、行政や企業による同和問題にかんする研修や講演といった社会啓発については、「10回以上」参加したことがあると答えた者65人(2.2%)、「5〜9回」が79人(2.6%)、「2〜4回」が329人(10.9%)、「1回」が212人(7.0%)であり、残りは「1回もない」もしくは無回答であった。

 表2表3表4は、同和教育経験と社会啓発経験によって、人びとの「同和問題の知識度」「マイナスイメージ」そして「結婚問題への態度」が変化したかどうかを、重回帰分析によって調べた結果である。
 同和教育を受けることで、「同和問題の知識」が少しは増え、「マイナスイメージ」も少しは薄くなっているけれども、「結婚問題への態度」を変えるまでの効果はまったくなかった、というのが分析結果であった。

表2 「同和問題の知識度」に対する同和教育経験と社会啓発経験の効果
要因

ベータ係数

性別 .132**
年齢 -.191**
学歴 -.058**
同和教育経験 .053*
社会啓発経験 .335**

**は p < .01で有意。
*は p < .05 で有意。
N=1975  Rの2乗=.200
一方、社会啓発を受けた場合は、「同和問題の知識」は顕著に増え、「マイナスイメージ」もある程度少なくなり、「結婚問題への態度」もある程度プラスの方向に変わっている、という一定の効果が認められた。 表3「マイナスイメージ」に対する同和教育経験と社会啓発経験の効果
要因

ベータ係数

性別 -.054*
年齢 -.041
学歴 -.053*
同和教育経験 -.052*
社会啓発経験 -.078**

**は p < .01で有意。
*は p < .05 で有意。
N=1934  Rの2乗=.014

表4 「結婚問題への態度」に対する同和教育経験と社会啓発経験の効果
要因

ベータ係数

性別 .105**
年齢 .146**
学歴 .050*
同和教育経験 .006
社会啓発経験 .075**

**は p < .01で有意。
*は p < .05 で有意。
N=2259  Rの2乗=.029


●頻繁な啓発が効果をもたらす

 この社会啓発の効果をより具体的に見るために、社会啓発に参加した度合によって、「同和問題の知識度」「マイナスイメージ」そして「結婚問題への態度」がどう変化してきたかを分散分析によって見てみよう。分散分析というのは、社会啓発に参加した度合ごとに、たとえば「同和問題の知識度」の平均点を比較してみる分析法のことである。

 表5に示すように、社会啓発に参加した回数が多ければ多いほど、「同和問題の知識度」が着実に増加している(平均値が小さいほうが知識が多いことを示している)。

 表6に示すように、社会啓発に「10回以上」参加した人たちだけが、それ以外の人たちに比べて、同和地区にたいする「マイナスイメージ」が顕著に少なくなっている(平均値が大きいほうが「マイナスイメージ」が少ないことを示している)。

 表7に示すように、社会啓発に「10回以上」参加した人たちだけが、それ以外の人たちに比べて、はっきりと「結婚問題への態度」がより差別的でなくなっている(平均値が小さいほうが「結婚問題への態度」が差別的でないことを示している)。

 要するに、統計的分析の結果としては、社会啓発経験は、受けた回数が多くなるに比例して「同和問題の知識度」を着実に増やすという効果が認められた。ただし、「マイナスイメージ」をなくし、「結婚問題への態度」をよりプラスの方向に変えるという点では、「10回以上」という頻繁に受けた場合にのみ、はじめて明確な効果を生み出すことができているのである。したがって、"差別をしない"人間を育てるという社会啓発の課題は頻繁に受講した場合にのみ達成可能である、と結論づけることができる。

表5 「同和問題の知識度」の社会啓発経験度別分散分析
経験度 回答数 平均値
10回以上 59 14.14
5〜9回 70 17.10
2〜4回 269 18.03
1回 167 19.02
なし 1464 20.13
全体 2029 19.48

表6 「マイナスイメージ」の社会啓発経験度別分散分析
経験度 回答数 平均値
10回以上

53

11.75
5〜9回 68 10.10
2〜4回 258 9.78
1回 170 9.78
なし 1424 9.61
全体 1973 9.72

表7 「結婚問題への態度」の社会啓発経験度別分散分析
経験度 回答数 平均値
10回以上 62 1.53
5〜9回 77 1.82
2〜4回 321 1.85
1回 208 1.91
なし 1671 1.91
全体 2339 1.89

●被差別の当事者の話が最も効果的

 一口に社会啓発といっても、その中身は多様である。たとえば、「映画の上映」「学者・専門家の話」「行政の人の話」「学校の先生の話」「企業の啓発担当者の話」「同和地区の人の話」などなど。効果があったのは、このうちのどれだったのだろうか。
「同和問題の知識」を大きく増やす効果をもっていたのは、「同和地区の人の話」と「学者・専門家の話」であった。
 肝心な「マイナスイメージ」の除去にもっとも効果的だったのは、「同和地区の人の話」であった。―――「企業の啓発担当者の話」は、残念ながら、かえって若干ではあれ「マイナスイメージ」を強める結果となっていた。もちろん、このような統計的分析というのは、全体としての傾向を明らかにしているのであって、企業の啓発担当者の話がすべてそうだというわけではない。ただ、全体の傾向としてこういう結果が出たということは、認識しておいてほしいと思う。

 そして、「結婚問題への態度」の変容に効果的であったのも、「同和地区の人の話」であった。―――念のために付言すれば、この点では、「企業の啓発担当者の話」が「結婚問題への態度」に逆効果をもたらすということはなかった。
 なぜ、このような結果が出たのだろうか。「同和地区の人の話」が社会啓発を受けての「プラスの印象」がもっとも強かった。―――社会啓発を受けての「プラスの印象」というのは、「わかりやすく」、「講師の熱意を感じ」、「差別をなくそうという気持ちが強まり」、「人権や差別の問題が身近に感じられた」という印象のことである。
 社会啓発を受けての「マイナスの印象」が少ないのも、「学者・専門家の話」と「同和地区の人の話」であった。―――社会啓発を受けての「マイナスの印象」というのは、「内容が暗く」、「講師がタテマエで話をしている」、「差別をなくすのは難しい」と感じ、「具体的にどうすればよいのかわからない」という印象のことである。

●社会啓発の可能性

 千葉県内の住民意識調査の結果によれば、「結婚問題」で差別的な態度をとるかどうかに決定的に影響しているのは、「同和地区に対するマイナスイメージ」の有無であった。同和問題についてものしりであるかどうかは、関係なかった。同和教育にせよ社会啓発にせよ、知識を与えるだけでは無意味なのだ。
 これまでの学校での同和教育は、はっきりいって、あまり効果のあるものではなかったようだ。その点、行政や企業による社会啓発は、頻繁に参加した人たちには明確な効果をあげていた。社会啓発は、中途半端にやるのではなく、徹底してやってこそ意味があるということだ。ただし、たんに回数を増やせばよいというものではなく、中身も吟味してやる必要があるということを、今回の調査結果は示唆していた。
 東京人権啓発企業連絡会でも、加盟企業の長年にわたる社内啓発がどれだけの効果をあげてきたのかを一度調査してみることが、今後の企業内人権啓発の豊かな可能性をつくりだすのに役立つのではないか、と思う。

 


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