●厳存する結婚差別

私は、大学の「社会調査法」の調査実習で、毎年、学生たちと被差別部落を訪ね、聞き取りをさせてもらっている。以下は、1996年、栃木県佐野市内のある被差別部落在住のFKさん(1949年生、聞き取り時点で46歳)の語りの一部である。
FKさん自身は部落出身ではない。栃木県内の別の町に生まれ育ち、成長するまで部落問題はほとんど知らなかった。しかし、ある男性との結婚を望んだとき、家族親戚中から執拗な反対を受けた。理由は「方角が悪い」「年回りが悪いから、絶対ダメだ」というものであった。「駆け落ち」し「勘当」されて、一緒になった。
住み着いた佐野市内の地区が「部落」であることを彼女が知ったのは、子どもを出産する前日であった。夫が、涙ながらに、「じつは、うちは部落なんだ」と打ち明けたのだ。「生まれてくる子どもが、結婚するときに、また反対されたらどうする?」と夫が言い、「私みたいな人をもらうか、そういう人のところへ嫁に行けばいいじゃない」と彼女は答えた。
FKさんの語りがつづく。

F K せがれが結婚差別にあったんですよ、一昨年なんですけど。やっぱり、あの、部落って……(涙声で詰まりながら)
聞き手 いま、息子さんはおいくつなんですか?
F K 27歳。せがれは、ガソリンスタンドへ勤めに行ってたんですよ。そこに事務員として来てた娘さんと交際が始まった。相手の両親もうちのせがれを気に入って、いずれ結婚っていう話だったんです。

あるとき、「むこうの両親が、念のためにF家を調べるよ、って。いいよ、って、おれ言ったけど、べつに問題はないだんべぇ」って、私、せがれに言われたんですよ。ドキってしちゃったのね。うちのだんなとおばちゃん(=姑)に、「子どもには、絶対、言っちゃダメだ」って言われてたから、私は自分の子に言ってなかったわけ。

で、案の定、調べたんですよ。うちが部落だってわかった。そしたら、手のひらを返して、「部落の人じゃダメだ」と。
うちのせがれが、彼女のうちから電話をかけてきたんですよ。「お母さん、うちは部落なんけ?」って。夜、帰ってくるなり、「なんで、お母さんは、お父さんと結婚したんだ。むこうの親が調べたら、お母さんは部落じゃないって。だから、お母さんがお父さんと結婚しなければ、おれは生まれなかったから、こんな思い、しなくてすんだ。部落ってのは、同じお膳には座れない。人から二歩も三歩もさがって歩いていかなくちゃなんない。そういう身分だっていうことを、いま、聞いてきた。なんで、おれを生んだんだ」って。

聞き手 つらい体験でしたね。
F K それまで、一日として仕事を休んだことがない子だったの。でも、その日から、うちから出ないんですよ。もう、悩んじゃって。あの子が自殺するんじゃないかって……。私も一気に夢がくずれちゃったでしょ。

相手の親は、一回は認めたんです。うちの子が部落でも、おれたちが気にいった子だからいいだろう、と。したら、お姉さんの婿さんになってる人が、「おれは、身内にそういうのがいると、出世の妨げになるから、絶対許さない。もし、ふたりのことを許すんだったら、おれは別れる」と言ったんですって。そうなれば、どっちを取るかってば、うちの子のほうは日も浅いですし、やっぱり、そっちのほうがかわいくなるじゃない。だから、結局、別れるという話になった、って。
うちの子は、一ヶ月たって……。仕事は変えたけどね、「もう、あそこには行けない」って。立ち直ってくれたけど。ただ、「おれは、もう、二度と結婚はしない」って。いまもそういう気持ちでいる。




●住民意識調査

私は、千葉県内のM市、N市、S町が1997年度に千葉県人権啓発センターに委託した「人権問題に関する住民意識調査」を担当することになった(調査対象者は20歳以上の男女で、郵送法による調査。有効回収サンプル数は3015。有効回収率は45.2%)

そこで、いまだに被差別部落出身者との結婚に難色を示す人は、どのような考えの持ち主に多いのか、また、これまでの学校での同和教育と行政や企業による社会啓発が、結婚問題で人びとが差別的態度をとることをなくす点において、どの程度の効果を発揮してきたのかに焦点をあてて、意識調査を実施することにした。

以下、調査結果の骨子を報告したい。

「もし仮に、恋愛をし、結婚をしようと思っている相手が同和地区の出身だとわかったとします。その場合、あなたならどうすると思いますか」と独身者にたいして尋ねたところ、回答の結果は、「相手の出身など、まったく問題にしない」47.8%、「迷いながらも、結局は結婚の意志を変えないだろう」36.4%、「迷った末、結局は考え直すだろう」11.6%、「考え直す」4.2%であった。

一方、「もし仮に、あなたのお子さんやお孫さんが恋愛をし、結婚したいといっている相手が同和地区の出身だとわかったとします。その場合、あなたならどんな態度をとると思いますか」と非独身者にたいして尋ねたところ、回答の結果は、「相手の出身など、まったく問題にしない」29.8%、「迷いながらも、結局は本人の意志を尊重するだろう」51.7%、「迷った末、結局は考え直すように言うだろう」14.2%、「考え直すよう強く言う」4.3%であった。


●結婚差別を支える意識の構造

ひところとくらべ、こんにちでは、コンピュータによる複雑な分析がいとも簡単にできるようになった。表1に示したのは、さまざまな意識のありようが「結婚問題への態度」にどの程度の影響を及ぼしているかを分析した重回帰分析の結果である。なお、ここでは、「結婚への態度」は、前述の独身者にたいする質問と非独身者にたいする質問の回答を合成したものを用いている。

統計的分析についてあまり馴染みのない人のために、重回帰分析とはどんなものかを説明しておこう。たとえば、同和教育を受けた人ほど差別意識がないという相関関係が認められたとする。しかし、同和教育を受けたことのある人は若い世代に多いという現実がある。一方で、高齢者のほうが差別意識が強いということがあったとする。そうすると、同和教育の経験と差別意識の強弱のあいだに相関関係が認められたとしても、それだけでは同和教育の効果があったかどうかはわからない。同和教育を受けたことのある人にはもともと差別意識が少ない人が多かったために、そういう結果が出ただけかもしれないからである。重回帰分析とは、差別意識の強弱と同和教育経験と年齢といったさまざまな要因を一度に分析にかけることで、相互の影響を取り除いて、同和教育経験の効果をより純粋にとりだしてくれる、という便利な分析法なのである。


表1 「結婚問題への態度」に
対する諸要因の影響力の強さ
要因

ベータ係数

性別 .109**
年齢 .147**
学歴 .020
同和問題の知識度 -.039
ホンネ意識 -.152**
タテマエ意識 -.025
マイナスイメージ -.388**
反差別的な考え .198**
差別自然解消論 .137**
逆差別論 -.037

**は p < .01で有意。
*は p < .05 で有意。
N = 1448  Rの2乗 = .256

 

表1の結果を読み取っていこう。

ベータ係数というのは、単なる相関関係をあらわす係数ではなく、その要因の実質的な影響力を示す係数であり、絶対値が大きいほど影響力が大きいことをあらわす。マイナスの記号がついているかどうかは、その影響の方向性を示す。**のマークがついたものは、99%の確かさで、その要因が「結婚問題への態度」に影響を及ぼしていることが確かであるという検定の結果を示している。

さて、「性別」「年齢」「学歴」は、ほかの諸要因への影響を取り除くために取り入れたコントロール要因であるが、もちろん、それ自体の影響の有無も意味をもつ。ここで示された結果は、年齢が高い人のほうが結婚問題で拒絶的な態度をとる傾向があり、男性よりも女性のほうがやや拒絶的な態度をとる傾向があるが、学歴は無関係だ、ということである。

意識にかかわる要因のなかで圧倒的に大きなベータ係数を示したのは、「同和地区にたいするマイナスイメージ」をもっているかどうかであった。つまり、同和地区にたいして「暗い」「こわい」「かわいそう」「同和地区に生まれないでよかった」といったイメージをもつ人ほど、結婚問題で差別する傾向がひじょうに強いということが明らかになった。

他の要因は、マイナスイメージほど強い影響力をもたないが、それぞれ、「結婚問題への態度」に次のような影響をもっていることが判明した。

被差別者への共感と問題解決のための取り組みへの支持をあらわす「反差別的な考え」が強い人ほど、結婚問題で拒絶的な態度はとらない。心のどこかで差別があるのは仕方のないことだと考える「ホンネとしての差別容認意識」が強い人ほど、拒絶的な態度をとる。そして、部落差別は自然になくなってきているという「差別自然解消論」の考え方をする人は、あまり拒絶的な態度をとらない−−−”差別はもうない”と思っているから差別をしないというのは、それなりに理解できることであろう。しかし、冒頭で紹介したように、いまだに差別があるのが現実である。したがって、「差別自然解消論」の考え方をもたせることは、同和教育や社会啓発の課題とはなりえないと私は考える。

一方、「同和問題の知識」をどれだけ烽チているか、口先で”差別はいけないと思う”と言うような「タテマエとしての人権尊重意識」が強いかどうか、および、同和地区住民だけが特別扱いを受けるのは不公平であると考える「逆差別論」の考えが強いかどうかは、「結婚問題への態度」とは関係がない、という調査結果であった。

表1の重回帰分析の結果の要点は、人びとの「結婚問題への態度」には、「同和地区にたいするマイナスイメージ」が大きく影響を及ぼしており、「同和問題にかんする知識」をたくさんもっているかどうかは関係がない、ということである。従来からよく言われてきた、”同和教育・社会啓発の課題は、知識を与えることではなく、感性を変えることだ”ということが、統計的調査によっても確証されたということだ。


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