はじめに  

 私たち第12グループは、1995年7月から、被差別部落の歴史をプラスイメージの視点から捉え直そうというテーマで学習を続けてきました。そのまとめとして、今回、「被差別部落の歴史<文化の技術>に学ぶ−プラスイメージの視点から−」というタイトルの教材を作成するところまで漕ぎ着けましたので、紹介します。

 

学習テーマの狙い  

 今回の学習テーマを選定するにあたっては、グループメンバーでいろいろな角度から検討を加えました。その結果、被差別部落の人々が、実は社会的に重要な役割を担ってきた、という歴史的な事実に焦点を絞ることにしました。その歴史的な事実を明らかにすることによって、被差別部落に対するプラスイメージを構築し、それを部落差別の解消につなげることができないものかと考えたわけです。

 被差別部落のプラスイメージを構築する方法はいろいろあろうかと思いますが、私たちは、とくに中世から近世にかけての被差別部落の人々の<文化と技術>に着目し、六つの歴史的な事実を明らかにすることにしました。

    1. 灌漑用水路を開発した土木技術
    2. 日本の織物産業を支えた竹筬(たけおさ)製造技術
    3. 医学の進歩に役立った解剖技術
    4. 日本の祭りに欠かせない太鼓作り
    5. 中世の被差別民衆と芸能
    6. 江戸時代における被差別民衆の生活・産業と文化
学習の進め方  

 学習自体は文献調査が主体でしたが、”現地学習”も採り入れ、東京のJR総武線両国駅の近くにある「江戸東京博物館」、東京・江東区の「深川江戸資料館」、京都では「龍安寺庭園」、「慈照寺銀閣」、「西陣織物会館」の三カ所、石川県・松任市の「太鼓の里資料館」、それに、長野県・浅科村の「五郎兵衛記念館」などを見学し、学習しました。 とくに「五郎兵衛記念館」では、信州農村開発史研究所の斉藤洋一先生から、「五郎兵衛用水路」の特徴や当時の「五郎兵衛新田」の様子などを教えていただきました。 また実際に「五郎兵衛用水路」を歩いてみて、当時の人々の苦労に思いをはせ、文献学習だけでは得られない貴重な体験をしました。

 

教材の構成と内容  

 教材は、各項目毎に、啓発担当者用の「学習マニュアル」、研修参加者に配布する「研修シート」、数枚のOHPで構成されています。実際の研修では、OHPを見ながら「研修シート」を使用して話し合うことになります。

学習内容を概略的に紹介しますと、

1.「灌漑用水路を開発した土木技術」では、(1)江戸時代の初め、被差別民衆の中には、砥石の切り出しの仕事を通じて岩盤にトンネルを掘る技術を身に付けたり、金堀りに従事する中で高度な測量技術を身に付けた人々がいた(2)この人々が「五郎兵衛用水路」の開さくを通して五郎兵衛新田の開発に貢献したことなどを学習します。


2.「日本の織物産業を支えた竹筬(たけおさ)製造技術」では、(1)近世から近代にかけて、被差別部落の人々が竹筬を製造・販売していた(2)それを通じて、被差別部落の人々が当時の主要な産業だった織物産業を支え、近代日本の発展に貢献したことなどを学習します。
3.「医学の進歩に役立った解剖技術」では、(1)江戸時代、被差別部落の人々の中に人体解剖の技術・知識を身に付けた人がいた(2)その中の一人の老人が江戸・小塚原でふわけ(解剖)を行い、それを見学した蘭学者・杉田玄白らは、持参していたオランダ語で書かれた「ターヘル・アナトミア」の正確さに感動し、翻訳を決意した(3)その翻訳本「解体新書」が日本の解剖学を学問的に体系化させるきっかけとなったことなどを学習します。
4.「日本のお祭りに欠かせない太鼓作り」では、(1)太鼓は被差別部落の人々によって受け継がれ、製造技術が磨かれてきた(2)今日においても太鼓作りは、伝統産業の一つとして位置付けられていることなどを学習します。
5.「中世の被差別民衆と芸能」では、(1)中世の被差別民衆は、様々な芸能に携わっていた(2)中世に芽生えた芸能の一部は、次の江戸時代に花開くきっかけとなったことなどを学習します。

6.「江戸時代における被差別民衆の生活・産業と文化」では、(1)厳しい身分制度の中で被差別民衆は様々な芸能・文化を開花させ、その一部は今日の伝統文化の源になっている(2)歌舞伎に代表されるように、近世の伝統文化の中には今日でも高く評価されているものが残っていることなどを学習します。

 

反省と課題  

 今回の学習を通じて私たちは、差別を受けていた人々が、誇り得る、歴史的、社会的役割を十分に果たしていた事実、言い換えれば、優れた生活技術を身に付けていた事実を知ることが出来ました。 しかし、学習のまとめとして教材に仕上げてはみましたが、当初の目的を達成出来たかどうか、と言えば、不十分な面が多く残ってしまいました。今後、実際に社内研修に使用し、改良を加えていくことによって、より充実した教材に成長させていきたいと考えております。その意味で、”成長途上”の教材と考えています。

 

おわりに  

 私たちの今後の課題は、この教材を、実際の社内研修に、どのように活用していくかということです。六つの歴史的な事実そのものを対象とした研修にするのか、話の合間に「例えば、昔はこういうことがありました」というように、何項目かを引用した使い方をするのか、活用の仕方はいろいろと考えられます。この教材が、被差別部落のプラスイメージ作りに多少なりとも役に立つことを願っています。

   

目次へ