在日コリアンの人権について(6)

5.民族差別のない共生社会をめざして

 

(19)日本国籍をとれば、在日コリアンの差別問題は解消されるのでは?

 戦後50数年を経た今日でも、いわゆる旧植民地出身者とその子孫である韓国・朝鮮籍住民は約49万人にものぼります。日本社会において日本国籍を持たない在日コリアンは、様々な差別的待遇を受けてきました。それでも韓国・朝鮮籍を保持してきたことは、在日コリアンが民族的出自に誇りを持って生きてきたからともいえるでしょう。
 日本人が「国籍をとれば差別がなくなるのでは?」と善意で考え、「帰化」を勧めたりすることがありますが、多くの場合、漠然とそのように思っているだけで根拠はありません。そして、その一言は民族的出自に自負を持っている在日コリアンにとっては、あまり耳あたりの良いものではないことに気づく必要があります。
 在日コリアンが日本国籍を取得する、しないということは、当事者自身が決めることであり、また、その意志は尊重されるべきでしょう。
 いわゆる「簡易帰化法案」なるものが一時話題になりました。これは、在日コリアンがその多くを占める外国籍住民に地方参政権を与えるかわりに、これまでより簡単な手続きで「帰化」できるようにするというもので、「帰化」により地方・国政参政権も同時に入手できるという内容です。この法案は過去に何度も国会に上程・審議されていますが、外国籍のままの住民には地方参政権を与えたくないという考えが「簡易帰化法案」の前提となっています。地方参政権と「帰化」をセットにするという発想は、結果的に同化を強いることに通じるのではないでしょうか。
 日本社会が真に開かれた共生社会になるためには、地域住民として納税義務を果たしている在日コリアンなどの外国籍住民にも、地方参政権が付与されるべきだと考えます。
 また、1985年に父母両系血統主義が採用されてから、国際結婚により生まれた子どもは重国籍者として日本国籍も持ち、その数は増加し続けています。しかしながら、このような子どもたちが、学校などでその民族的出自に関わって差別的言動にさらされる場合が見受けられます。
 以上のように、日本社会の現状を考えると、日本国籍を取得すれば在日コリアンに対する民族差別問題が解決すると考えるのは早計といえるでしょう。

(20)外国籍住民の人権擁護に関する法律にはどのようなものがあるのですか?

  日本国憲法には在日コリアンを含めた外国籍住民の人権に関する明確な規定は、残念ながら定められていません。「法の下の平等」や「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を、外国籍住民も享受できるというように一般的に解釈されています。
 憲法上のこの「国民」という用語のため、日本国籍を持たない外国籍住民はさまざまな法律に明記された「国籍条項」のもとで、諸権利を奪われてきたともいえます。

 このような差別的状況が改善されるうえで、「国際人権規約」(1977年批准)と「難民条約」(1982年批准)がもたらした「外圧」は決して小さなものではありませんでした。両条約の批准により、外国籍住民に対しても日本人と同等の待遇が保障されなければならないという精神が広がり、法律上の「国籍条項」が一つひとつ削られていったのです。具体的には、外国籍住民であっても公共住宅への入居や国民金融公庫の融資が利用可能となり、また、児童手当三法の適用や国民年金制度への加入が実現したことなどがあります。
 
 また、1994年には「子どもの権利条約」が、その翌年には「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」が批准され、内外人平等という精神以上に、「民族的少数者(マイノリティー)」の人権を積極的に擁護しなければならない理念が日本社会にも広がりつつあります。このような国際的な諸条約の批准にもかかわらず、今まで解説してきたように在日コリアンに対する制度上の問題が残存しています。国連の人権委員会から日本政府に対して、外国籍住民の無年金問題や民族学校出身者の大学入試資格問題などに改善勧告や見解が何度も出されています。
 日本が「経済大国」であることは自他ともに認めるところですが、「人権大国」への道のりはまだまだ遠いといわざるをえません。一日も早い実現が望まれます。

 

6.むすび

 

 これまで20項目という限定されたQ&Aを通じてですが、在日コリアンの過去・現在に関して解説をしてきました。在日コリアンの歴史的背景や直面している諸問題に関しては、学校教育ではほとんど教えられていないという実情を踏まえ、幅広く、また、わかりやすい文章を心がけました。
 
 国籍条項などの制度は、世界的な人権意識の高揚とともに日本社会においても徐々になくなりつつありますが、公務員採用などに見られるように完全に撤廃されたわけではありません。人権擁護という観点からもこのような制度は速やかに撤廃されるべきでしょう。
 また、明治政府以来100年を超えて今日にいたるまで、韓国・朝鮮や在日コリアンに対する日本人の蔑視・差別(日本人の優越)意識は根深く、未だに改善の余地が大きいといわざるをえません。
 このような差別意識の多くは韓国・朝鮮や在日コリアンに対する無知と偏見に起因しています。それらを正すためには、古代から近世にいたるまでの日本列島と朝鮮半島との深いつながりや在日コリアンの歴史的背景とその現状などを知ることが大切です。また、各人が社会的弱者や少数者(マイノリティー)に対する理解と共感に根ざした人権意識を磨くことも欠かせません。

 この連載のはじめの部分にも書きましたが、在日コリアンの人権問題とは、異なる民族的出自をもつ人びとに対する日本社会のあり方の問題なのです。外国籍住民であれ、この社会の構成員としての義務を果たしている以上、その諸権利は日本人住民と同等に保障され、差別的な対応があってはなりません。
 日本社会が民族差別のない真の共生社会となるために、あなたの隣人である在日コリアンにどう向き合ってゆくかが、この社会のよりよい発展の試金石ともいえます。日本社会の真の「国際化」が、身近な在日コリアンの人権状況の改善から始まることを願いつつ連載を終了いたします。


 【主な参考文献】
 『日本による朝鮮支配の40年』(朝日新聞社刊 姜在彦著)
 『Q&A 在日韓国・朝鮮人問題の基礎知識(第2版)』(明石書店刊 仲尾宏著)
 『キーワードで学ぶ在日コリアンの人権』((社)大阪国際理解教育研究センター刊)
 『きっとわかりあえるよ』((社)大阪国際理解教育研究センター刊)