エッセイ

あなたには見えてますか 北野 裕也 
 その知人は、神戸に近いある地方都市で開業している外科医師であった。
 その街にも、いわゆる「極道者」と呼ばれる人がいた。しかし彼らにも、家庭もあれば子供もいる。中には、そのような生活から抜け出し堅気になろうと決心をする者もいる。
 そのような「極道者」が、時たま医師を訪ねてくることがある。用件は指を詰めたので傷口を消毒、縫合してくれとか、若いときに入れた 倶梨伽羅紋紋(くりからもんもん)を消してくれなどである。しかし、傷口の縫合くらいは簡単にできても刺青は消すことができない。親からもらった身体にそのようなものを入れて「ばか者」と一喝して帰らすとの話であった。
 自分から進んで他人と異なった世界に生きると宣言した者ですら、時が経ち家族もできると平凡な生活に戻りたいと、自分に貼ったレッテルを剥がしにくるが、そのレッテルは容易に剥がれようとはしない。
 しかし、私たちは自分自身が認識せずに他人にレッテルを貼り付けて生活をしていないだろうか。ひょっとするとそのレッテルはその人に一生ついてその人を苦しめ、剥がせなくしているのかもしれない。刺青とは異なり表面的には見えないだけに恐ろしさも感じ、日々自分の言動に留意して生活しなければと自戒している。


戻る