人権の広場

障害者と社会〜虐待・警察プロジェクト・条例〜(最終回)
 
  
毎日新聞社夕刊編集部長 野沢 和弘 (のざわ かずひろ)
●プロフィール
 1959年静岡県生まれ。1983年早稲田大学法学部卒業。毎日新聞入社。津支局、中部報道部、東京社会部。薬害エイズ取材班、児童虐待取材班など。科学環境部副部長、社会部副部長を経て、2007年5月から夕刊編集部長。全日本手をつなぐ育成会理事・「手をつなぐ」編集長。市川市人権擁護委員。
 著書に「条例のある街」(ぶどう社)、「わかりやすさの本質」(NHK出版/生活人白書)、「発達障害とメディア」(現代人文社)、「なぜ人は虐待するのか」「シカゴの夜から六本木の朝まで」「親」(Sプランニング)など。
ポートレイト


障害者への差別をなくす条例

 虐待だけでなく、その裾野に広がる障害者への無理解や偏見や差別をなくす必要もあります。日本弁護士連合会の調査では世界で40数カ国に障害者差別禁止法が存在するそうですが、その中には日本は含まれていません。

 たまたま私が千葉県に居住していた縁で、堂本暁子知事が主唱する千葉県の福祉施策づくりに民間の立場で協力することになりました。その重要な課題として、国に率先して千葉県で障害者差別をなくすための条例をつくろうということになり、条例原案づくりをする研究会の座長を私が委任されました。さまざまな障害のある当事者、医療・労働・福祉・教育分野の専門家らからなる研究会では激論が続きました。夜の県庁会議室での会議は丸一年に及び、30数団体からのヒアリング、県内32カ所でのタウンミーティングなどを通して、多くの声を集約して条例原案はできあがりました。

 しかし、知事に批判的な会派が7割の議席を占める県議会では猛反対を受けました。議員たちへの説得、署名活動、県内各地での勉強会の開催、傍聴の呼びかけなどに奔走し、条例案を提出してから3度目の議会でようやく成立にこぎつけました。その経過は「条例のある街」(ぶどう社)に詳しく記しましたが、「きらきら光る民主主義の結晶」(朝日新聞)などと評価され、全国各自治体や障害者団体から注目されています。

写真
▲「条例のある街」出版記念で世話人をしてくれた堂本暁子・千葉県知事(右)と

20年後のタラちゃん

   サザエさんちのタラちゃんみたいにずっと赤ちゃんのままでいてくれたら……と願っていた長男は21歳になりました。身体は健康で体を動かすことが大好きですが、言葉はまったく話せず、信号や交通ルールが理解できない、最重度の知的障害者です。日常生活のさまざまな場面で介助が必要です。少し前であれば入所施設での管理された暮らしを勧められるタイプの障害者だったでしょう。

 しかし、いま長男は街の中で普通に暮らしています。賃金は決して多くはないけれど、小規模授産施設に通い、土日は若いヘルパーのお兄ちゃんと遊びに出かけたり、家族で畑に行って野菜栽培をしたりして過ごします。思春期のころから音楽が好きになり、たまに日本武道館でのロックのライブにヘルパーと行くことがあります。

 言葉は話せなくても、20年も同じ屋根の下で暮らしていると、ちょっとした雰囲気や目の動きや声の調子で不思議なくらいコミュニケーションができることがあります。やさしさに癒やされ、はかりごとを知らない純粋さに心が洗われることもあります。タラちゃんのままでいることはかないませんでしたが、キラキラと輝くような青春を送っている、かけがえのない家族となりました。

 

バックナンバー

1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
2005年 2006年 2007年