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金子みすゞ記念館館長 矢崎 節夫
「みんなちがって、みんないい」〜金子みすゞさんのまなざし〜
(その1)

金子みすゞ記念館館長 矢崎 節夫

●プロフィール

早1947年 東京生まれ 
早稲田大学英文学科卒業
童謡詩人 佐藤義美・まどみちおに師事
1982年 童話集『ほしとそらのしたで』(フレーベル館)で第12回赤い鳥文学賞を受賞
童謡詩人金子みすゞの作品を探し続ける
1984年 『金子みすゞ』全集(JULA出版局)を出版
1993年 『童謡詩人金子みすゞの生涯』(JULA出版局)で日本児童文学学会賞を受賞
2003年 金子みすゞ記念館(山口県長門市)の初代館長に就任

・近年は全国各地で講演を行い、金子みすゞの甦りを多くの人びとに伝える
・ネパールにみすゞの名前を冠した小学校建設や、みすゞ医療キャンプなど活動は多岐に広がり実を結びつつある

☆「私とあなた」から「あなたと私」へ☆

大 漁

 朝焼小焼だ
 大漁だ。
 大羽鰮の
 大漁だ。
 浜はまつりの
 ようだけど
 海のなかでは
 何万の
 鰮のとむらい
 するだろう。

金子みすゞ
▲金子みすゞ(本名テル) 1903(明治36)年山口県大津郡仙崎(今の長門市)に生まれる 童謡詩人みすゞは26歳という若さでこの世を去った 〈写真提供:金子みすゞ著作保存会
 金子みすゞの「大漁」に出合ったのは、いまから四十年前、大学一年の時に読んだ『日本童謡集』(岩波文庫)の中ででした。この「大漁」を読んだ時、童謡集に入っている他の87人の三百数十編が一瞬にして消えてしまうほどの衝撃でした。それまでの自分中心、人間中心のまなざしをひっくり返された、といっていいでしょう。

ー金子みすゞの作品をもっと読みたいー

 この時から、私のみすゞ捜しの旅は始まったのです。そして、16年目に実弟の上山雅輔さんに出合い、手元に大切に保管されていたみすゞの自筆の三冊の手帳に辿りついたのです。1982(昭和57)年六月のことでした。2年後に3冊の手帳をもとに、『金子みすゞ全集』(JULA出版局)を出版、みすゞは1930(昭和5)年3月10日、26才の若さで亡くなってから半世紀ぶりに甦ったのです。

 私はみすゞさんの文学を、「みすゞさんの宇宙」「みすゞコスモス」と呼んでいます。みすゞコスモスのまなざしは、「あなたと私」です。「大漁」に出合うまで、私はずっと「私と鰮」でした。鰮は私に食べられてあたりまえ、というまなざしです。しかし、「大漁」に出合った時、この自分中心、人間中心のまなざしが、「鰮と私」にひっくり返されたのです。

 みすゞさんのまなざしは、「私とあなた」ではなく、「あなたと私」です。では、どうして私ではなく、あなたが先なのでしょう。

 「みなさんは人間です。でもどうして自分が人間だと気づいたのでしょうか。誰かが君は人間だよ、と教えてくれたのでしょうか」

 多分、誰一人として君は人間だよ、なんて教えてもらった人はいないのではないでしょうか。ではもし、みなさんが生まれてすぐに犬くんたちの群れにポンと置かれたら、自分をなんだと考えるでしょうか。小学生の人たちに尋ねると、「犬だと思う」と答えます。

 そうなのです。私たちが自分を人間だと認識できる、こんな根源的なことですら、生まれた時からずっと、両親や祖父母、友だちや先生、地域の人たちがいてくれるからなのです。つまり、私が私であるためには、あなたという存在がいてくれないと成り立たないのです。ですから、「私とあなた」ではなく、「あなたと私」なのです。

 「親と子」「先生と生徒」「上司と部下」、みんな同じです。子が生まれてくれて親にしてくれたのだから、「子と親」だったのです。ただ、ずっと私たちは自分を中心に考えてきたのです。自分を中心に考えると、自分が相手より上がってしまいますから、上から下へ、「なぜ分からないの」「どうして出来ないの」「君のことが分からない」と、いいがちになるのです。これでは相手を理解することは出来ないのです。自分中心で上がってしまった自分の位置を、相手の位置まで下さない限り、相手を理解することは出来ないのです。だから理解するとは英語で、アンダ・スタンド、下に立つと書くのです。

3冊の手帳(手書き童謡集)
▲3冊の手帳(手書き童謡集)

 「大漁」を読むと、もう一つわかることがあります。昼と夜のように、光と影のように、この世はすべて二つで一つ、ということです。浜の喜びと海の悲しみ、喜びと悲しみで一つです。目に見えるものと見えないもので一つです。生きることと死ぬことで一つです。生死一如といいます。この二つで一つをきちんと具現化できるのはたった一つ、まず相手の存在を丸ごと認めて受け入れることです。こだますことです。ですから、みすゞコスモスの中心星は「大漁」ですが、彗星のように回っている星は「こだまでしょうか」です。


こだまでしょうか

「遊ぼう」っいうと
「遊ぼう」っいう。

「馬鹿」っいうと
「馬鹿」っいう。

「もう遊ばない」っいうと
「遊ばない」っいう。

そうして、あとで
さみしくなって

「ごめんね」っいうと
「ごめんね」っいう。

こだまでしょうか、
いいえ、誰でも

※作品出典は「金子みすゞ童謡全集」(JULA出版局)より

次回に続く

みんなちがって、みんないい
〜金子みすゞさんのまなざし〜 (その2)

  • ☆こだまし、うなづくこと☆
  • ☆誰もがいてくれるだけでいい☆

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